第6話 奇跡を起こすロボット 6
三日目の朝。デジタル変換は予定通りに進んでいる。
病室は打って変わって慌ただしく、病院のサポートロボットの定期的な作業以外にも、医者が確認しに来たり、技師も同じように確認しに来ていたりとした。
残り時間15分を切ったとき、病院内の技師とともにアリスとヒナが入ってきた。そして、技師の前には車いすが滑るように押され、人間の背の高さほどある真っ黒な人形が乗っていた。この人形がサポートスーツである。デジタル変換されたデータ生命体がソフトウェアとしてインストールする形式でサポートスーツに入ることでサポートスーツに変化が起き、データ生命体の情報のもとに人物を形成するのだ。
そんな、終わりが見える作業のなか、ヒナだけが場違いな雰囲気を際立たせていた。表情をこわばらせ、どこか思いつめた雰囲気を漂わせていたのだ。そんなヒナの様子に誰も気にすることなく、それぞれの作業をこなしていた。
アリスは硬質フレームを見ると『あと10分』と表示され、作業完成度を示すグラフには90パーセントを超えていた。
「そろそろ、ハジメの作業が終わりますね」
「その前に僕をほめて。二日間も寝ずにやったんだから」
「わかってます」
そっけなく答えたアリスに、ハジメはしっかりとほめろと言わんばかりの無言の目線を送った。そんなハジメの態度にアリスはギョッとさせた。
そのとき、ヒナが怖々とアリスに向けて話し始める。
「あの……、終わったあとに少し夫と話すことは可能ですか?」
「え……、ああ! そうですよね。ソフトウェア加工が終われば、できますよ」
「それと、あの……、夫のデータって消すことができますか?」
ヒナは今にも消え入りそうな声で訴えてきた。その声にはどこか恐れがあるような雰囲気を感じさせた。
「ん?」
――今までにない展開。ものすごい嫌な予感。
一方、アリスは研修などでも聞いたことがない質問をされ、内心、動揺していた。
「その……、お恥ずかしい話なんですが、夫はここ二年間、一度も帰ることもなくフォトグラファーの真似事をしていたんです。けど、こっちから連絡しても、ちゃんとした返事がなく……。返事が来たなと思ったら…………、その……、自然の風景の写真とか…………。夫自身、仕事で色々とあって自暴自棄になったというか。……実は、夫がこのような状態になったときに家族と話し合って、拒否という話になったんです。こんな人、生きても迷惑ですから。でも、私は一度死ぬ思いしたから、心を入れ替わっているかもしれないと思って……」
「そうですよね。死ぬ思いをしたら人は変わるって、よく聞きます」
「今も、進めてしまうことに罪悪感を感じるというか……」
――何かある?
ハジメはヒナの言葉に引っかかるものを感じた。ただ、ハジメでも説明できるほどの情報が少なく、何とも言えない状態なのだ。
――少しでも情報が多い方が良い。このまま、続けよう。
そう思ったハジメは、ヒナに向けて話し出す。
「この際、本人に話をしてみたら。ソフトウェア加工なんてあっという間だし、もう少し待てば会えるから」
「……そうします」
ヒナはこれ以上言うことはなかった。
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