20230301

今日も僕は仕事をこなした。仕事がある日、いったいいつ書く時間を設けるのかを考えている。僕は元来夜型人間なので夜に書くのが好きだ。夜中に静かに、ジャズやソウル・ミュージックを聴きながら書く……でも今の仕事はそうそう夜更かしをさせてくれるような甘いものではないので、いつも僕は朝方に書くことを選んで書いている。朝、まだ目覚めた時の気持ちを引きずったまま書く。そうするとリフレッシュされた僕の頭が思いもよらないことを書き出してくれることに驚く。「早起きは三文の徳」というが、朝さわやかな気持ちで書いたものを提供するのもいいのかもしれないなと思いつつある。夜中の熟成された気持ちを提供するのももちろん悪くはないのだろうけれど。


好むと好まざるとにかかわらず僕はきっと一生村上春樹の影の中から出られないのかなと思っているのだけれど、その村上春樹もまた朝に書くタイプの人らしい。夜は深酒したり夜更かししたりせずしっかり寝て、朝早く起きて書く。このルーティンをずっと繰り返して仕事をしていると聞いた。そしてもちろん、彼はランニングで身体を作ることも欠かさない。このストイックさは僕も見習わないといけないと思う。若い頃は僕は村上春樹の持つオシャレな雰囲気、洗練された空気ばかり見習って音楽の好みも凝ったものにしてビールを愛飲したりして気取っていたものだが、今はそんな猿真似をすることもあまり品のいいものではないと思うようになったので僕なりの生き方を磨いているところだ。


今日、僕は自分自身の才能について改めて考えた。僕には才能があるのか……春樹のように(と、馴れ馴れしく呼んでしまうが)ストイックにある作業をこなし続けて室のいい文章を提供するという能力は僕にはない。ならば作家として売りにできるものは何があるのだろうとも思う。中上健次のような「情念」や村上龍のような「狂気」。そうした、ドリアン助川的に言えば「叫びたいこと」というのが僕にはない。作家になりたいと思ったのは「好きなことを自由気ままに書きたいから」という情けない理由からである。それでは生き残れはしないだろう。なら、それでもいいと思う。僕は僕の道を歩み、素人として終わる。それもまた人生であるだろう、と思う。いい人生かどうかはわからないけれど……。


今これを聴いているのは夜だ。朝は僕自身の仕事の関係で書く時間を取れなかった。アース・ウィンド・アンド・ファイアー「ファンタジー」を聴きながらキーボードに自分の思いを打ち込んでいく。僕の「叫びたいこと」は、きっとこの僕にもわからないことだ。僕自身が僕の書いたものに一番最初に驚き、たじろぐ。僕はきっとそうして僕自身を驚かせるために(それだけのために、というわけでもないだろうけれど)書いている。そうした僕のためのテキストをこうして公開する。それがあなたをも驚かせるとしたら、そして楽しませるとしたら、それは存外の喜びだ。そうなればいいと甘い夢を見ながら、僕は今日もこのテキストを書き連ねていく。まだ見ぬあなたのために。

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