危険度:レベル8 寒冷地の巨大熱源

「……ん?何だこの音は」


深夜。寒冷地帯に住む一人の男が不審な音を聞いて目を覚ました。

その音とはズリ……ズリ……と何かを引きずるような音。

男は最初家の外で熊が鹿でも引きずっているのかと思い、銃を手に恐る恐る玄関から出て見ても、そこには何もいなかった。

気のせいかと思い再度眠りについたが、もう音は聞こえなくなっていた。




「母さん。なんか家軋んでない?」


地震なんて滅多に起こらない地域で突如として家がミシミシと音を立てた。それにいち早く気が付いたのはその家に住んでいる子供。


「そろそろ修繕した方がいいかしら」

「そうだなぁ……ここまで軋むようだと考えた方がいいか」


子供の指摘で家が軋んでいる事に気付いた両親が呑気に話し合っている。

その間に家の軋むことは無くなったが、代わりにズリ……ズリ……といった音が家中に響き始めた。

なんとも不穏なその音は、家の下から響いているようだった。




「おーい!大変だ!」

「どうしたんだよ。そんなに慌てて。川にでかい魚でもいたのか?」


ついさっき川へと釣りに出かけた一人の若い男が大慌てで戻って来た。

大事にしている釣り道具を置きっぱなしにするなんてことを今まで一度もしたことが無いのに、今彼が釣り道具を持っていないということは、川で何かと遭遇でもしたのだろうか。

そんな彼の騒ぎように次々と人が集まって来て、どんどん騒ぎが大きくなっていく。


「それどころじゃないよ!水だよ水!川から水が溢れそうなんだ!」

「は?水が溢れるなんてあるわけないだろ。ここ最近雨なんて降ってないんだから」

「でも変わった事といえば、最近少し暖かいよな。去年だったらまだ寒いくらいだったし」


慌てて戻って来た理由は川の水が溢れそうだから。だが、しばらくの間はこの辺りで雨が降った記録は一切なかった。

しかしここ数日は半袖でも過ごせるくらいには温かい日々が続いていた。とは言っても異常というほどでもない。

それに何かあったら上流の町や村から何かしらの連絡が来るはずだが、今のところ何の連絡も来てなかったため、彼らはあまり事態を深刻だと受け止めなかった。

この場に居た誰かが連絡を取っていれば、この異常に気付けたかもしれないのに。




「やっと着いたよー……あ~長かった。茜ちゃんは飛行機乗るの初めてだっけ?大丈夫だった?」

「ちょっと疲れたけど大丈夫だよ」


どれくらいの時間かは分からないけど、とにかく長い間飛行機に乗っていたから最中ちゃんは両腕を上に伸ばしながら私に飛行機はどうだったか聞いてきた。

飛行機に乗った事なんてなかったから、乗る前は緊張というか……飛行機が落ちないかが心配でハラハラドキドキだったんだけど、移動中は全然気にならなかった。

だって座席に備え付けられたモニターで色々な映画が見れたし、機内食もいっぱい食べる事ができたし、それに窓の外を見るのも楽しかったから、心配なんてしている暇は全然なかったんだよね。


「ホントかな~。なんだか眠そうに見えるんだけど、無理とかはしないようにね~」

「はーい」


最中ちゃんに言われた通り少し眠い。

移動時間が長いのは分かっていたんだけど、緊張してたからなのか中々眠ることはできなかった。でも空港からも長い距離移動するって聞いてるから、もしかしたら移動中に眠っちゃうかも。




「わー涼しい!日本と全然違うね」

「いや~快適な気温だね。……でも上着を着ないと少し寒いかな?茜ちゃんは持ってきた?」

「うん。ちゃんと持ってきたよ」


事前におじさんから上着はいくつか持って行った方がいいって聞いてたから、しっかり準備してあるから大丈夫だと思う。多分三着はあれば問題はないはず。

でも私たちが今から行く所は暑くなっている所みたいだし、もしかしたら上着もいらなくなったりして——。


その予想は正しかった……というか聞いていたから予想ってわけじゃないんだけど、おじさんから聞いた通り、移動中に少しずつ車の外の気温が上がっていた。

それに最初は遠くの山とかに雪が見えていたのに、移動するにつれて雪がだんだん減って行くのがわかった。

今の時期はまだ雪とか氷が残っていたりするって聞いてたんだけど、全然ない。


「だいぶ雪がとけてるなー」

「ほんとだ雪全然ないや。じゃあ、いつもはもっと寒いって事だよね?本当に暑くなってるんだ……」

「この雪解け水で、いくつもの村や町が被害にあっているみたいです。この近くでも洪水が発生してますね」

「一気に雪がとけたって事か。だとするとこの暑さを引き起こしたヤツはもっと熱いかもしれないね」

「うぇ~……こっちに来てまで暑いのは嫌だなぁ……」


最中ちゃんが言ったように、変異生物がすごく熱いヤツだったらなんて考えたくない。もしかしてこの辺も日本と同じくらい暑いのかもと思って車の窓を少し開けてみたけど、そんなことは無かった。

まあ、暖かかったけれども私には涼しく感じたのは、目標の変異生物がまだ近くにはいないって事だったらどうしよう……。




ついに車の中まで暑くなってきたから、我慢できずに窓を開けて空気を入れ替えようとしても涼しいのは風が入って来る時だけで、空気そのものはジメジメとしてて暑かった。


「窓開けても全然涼しくならないね~……」

「う~ん……もう近くにいるのかな?詳しい事わかってないんだよなー。アメリカから何か連絡来てない?」

「来てないですね。そもそも連絡がつながらないんですよ」

セブンと悪魔あいつらなにやってんだか……」


最中ちゃんと研究員さんが話し合ってる。

外はこんなに暑くなってるからこの辺りに居るって考えているみたいだけど、目的の変異生物の姿がどこにも見えない。


「やっぱ地下したにいるっぽいな~。地中から引きずり出すのは私には難しいから——」


そう言いながら助手席に座っていた最中ちゃんは後ろを振り返って私の方を見た。

最中ちゃんが言う前に何が言いたいのかはわかる。


「最中ちゃんでも難しいって言うくらいなんだから。私が地中から引きずり出すのは無理だと思うんだけど……」

「そう?だって研究所うちに居る毛玉と会話ができてるし、いけると思うんだけどな~」

「あれは毛玉がちゃんと話してくれるから話せてるだけで、地面の下に居るモノが話せるとは思えないよ?」

「まーまー、物は試しって事でさー」

「それなら、まあ……いいけど。期待しないでね?」


上手くいくとは思えなかったけれど、とりあえず目を閉じて地中へと意識を集中させる。

すると『なんだか暑いね』とか『下にすごいでかいヤツがいるぞ』って話しているのが虫か動物かまではわからないけど、そういった声が聞こえてきた。

色々話してはいたんだけど話題のほとんどが、この二つについてだった。

もしも話していることが本当だったら、地中にいる暑さの原因はすごく大きいかもしれない。


「最中ちゃん」

「どしたの茜ちゃん。なんかわかった~?」

「えっと、地中に居るヤツはさ、すっごい大きいみたい」

「……大きいってどのくらい?」

「そこまではわかんない。そもそも話してる生き物の大きさがすごく小さいかもしれないし」

「だといいんだけどねー。ほんとに大きかったら大変だなぁ……あ、いつでも逃げられるようにエンジンはかけっぱなしでね~」


私が話した後、最中ちゃんが運転手さんに指示をし始めた。それに最中ちゃんも大きいって聞いた時に大変だって言ってたから、下にいる変異生物はすごいヤツなのかもしれない。

でも、いくら集中してもそれ以外の声は聞こえてこなかった。

ふぅと息を吐いて肩の力が抜けた時、ふと聞こえてきたのは今までとは違う生物のもので『ハラヘッタ』と短く、その一言だけを繰り返している。


「見つけたよ」

「なんか言ってる?」

「お腹減ったっていうのを繰り返してるみたい」

「じゃあ、話しかけてみて。こっちは準備をしとくから」


最中ちゃんと話している間にも『ハラヘッタ』ってずっと言ってた。とってもお腹が減ってるみたいだけど、下手に話しかけたらすごい怒ってきそうな感じがする。

……もし襲われたらこの車で逃げ切れるかな?


『あのー……もしもし?』

『……ハラヘッタ』

『えっと……聞こえてますか?返事できるならしてほしいんですけど』

『…………』


急に何も聞こえなくなったけれども、なんだか感情みたいなものが膨れ上がるのを感じた。それはゾッとするような感覚で、怒っているんだってすぐにわかった。


「あ、怒ってるかも」

「ヤバっ車出して!」


私の言葉を聞いた最中ちゃんが発した大声で車は急発進した。

すると突然、さっきまで車が止まっていた場所と、その周辺一帯の地面が盛り上がったと思ったら、ブシュー!と勢いよく煙が噴き出した。

その煙は蒸気でとても熱く、開いていた車の窓からも熱い空気が入って来る。

蒸気が出たのは車の後ろの方なのに、これだけ熱いって事は近くにいたらとんでもなく


「うわっ!すごく熱い!」

「この熱さ……こいつが原因のヤツかー。怒ってるって言ってたけど、それから何か言ってるー?」

「ううん。何にも聞こえないよ。あ、蒸気も出なくなったね」

「蒸気は長く出し続けないみたいだねー。少しは落ち着いたのかな」


最中ちゃんがそんなことを言った後、地面がぼこぼこと盛り上がり、また蒸気が出てくるのかと思ったら、巨大なミミズみたいな生き物が大きな口をあけながら勢いよく出てきた。地面や木をゴリゴリと削り、削った土とか木とかを飲み込みながら私たちが乗る車を追ってきている。


「ぎゃー!あの生物が今回の原因って事だよね!?」

「おー、大きさの割に結構速いねー」


後ろを見るとミミズの口の中がよく見えた。口の中はギザギザとした歯が円状にずらりと並んでいて、ミキサーみたいにグルグルと動いている。こんなことは考えたくないけど、もし飲み込まれたら一瞬で粉々になっちゃう。


「う~ん、どうしようかな。追いつかれることは無さそうだけど、これだけ凶暴だとなぁ……流石に倒すしかないって私は思うんだけど、落ち着けば話くらいはできるようになると思う?」

「たぶんできると私は思うな。だってさっき話しかけた時、私の呼びかけに反応して出てきたんだもん。お腹がいっぱいになったら、もしかしたら話せるようになるかもしれないよ?」

「それなら、やれるだけやってみますかー」


最中ちゃんはそう言いながら助手席の窓を全開にすると、そこから身を乗り出したかと思ったら、そのまま車の屋根へと上って行ってしまった。

結構なスピードが出ているはずなのに、迷うことなく上がっていく姿を見た私は最中ちゃんを止める事も出来ず、ただ口を大きく開けてみている事しか出来なかった。


「えっと、上に行く必要あったのかなぁ……?」

「そんなに心配しなくても大丈夫だよ」

「あ、言い忘れてたんだけど、何があっても絶対にスピードは落とさないでよね」


私の隣に座っていた研究員さんの大丈夫だって言ったことをを始めは信じられなかったんだけど、今度は出て行った窓から顔を逆さまに出して運転手さんへと話して上へと戻って行った。


上で最中ちゃんが何をやっているのかが気になって、私も窓を開けて上を見ようとしたんだけど、危ないって止められちゃったから、後ろから追ってくるミミズの姿を見る事しかできなかった。


「そういえば、持ってきてますけど使います?」

「え?あのダイヤル持ってきてたの?置いていけって言ったのに」

「まーまー、そんな事言わないでくださいよ。今が使いどころでしょ?」

「茜ちゃんも最中の事が気になってしょうがないみたいだしね」


私の後ろの席に座っていた人が持ってきたダイヤルってものを使えば最中ちゃんの様子を見る事ができるみたい。

後ろに積んでいた大きなカバンの中からさっき話していたダイヤルを取り出した。

私は最初ダイヤルって聞いてもどんなものなのかさっぱり分からなかったんだけど、それは金庫とかについているジリジリと回す鍵とよく似ていた。


大きさは研究員さんの手よりも少し小さいくらいで、それを車の天井にペタリとくっつけると、ジリジリと金庫を開けるように取り付けたダイヤルを慎重に回していく。


「なんか明るくなってるような……」

「ふふっ、上を見たらわかるよ」


車の中に居るはずなのに、さっきより明るくなっている気がした。

そしてそれは気のせいじゃなくて、言われたとおり車の天井を見ると青い空が見えて太陽の光が上から入っていたからだった。


「え?なんで天井が透けてるの?まさかあのダイヤルが?」

「その通り!あのダイヤルをくっつけた面が透明になるのさ」

「このくらいでいいか。じゃあこれで最中の様子が見れるから」


ダイヤルの調整を終わらせた研究員さんたちは、上に居る最中ちゃんの事を全く気にすることなく手元の書類やパソコンで作業を始めた。

そして最中ちゃんは一回も下を見てないから、車の中から見えている事はわかってないんだと思う。もしかしたらダイヤルの事を知っているから見ないだけなのかもしれないけど。


「どーしよっかな……まあ、とりあえず動きを止めないとダメだよね」


声が聞こえると思っていなかったから、最中ちゃんの声が聞こえた事に驚いていると、笑いながら説明をしてくれた。

このダイヤルにはどうやらそういった機能もついているらしい。


最中ちゃんが腕をサッと上にあげると、ミミズの影からロープのようなものが巻き付きミミズをその場に押さえつけようとしてる。

確かあのロープは毛玉と敵対していたヤツの動きを止めるために使ってたやつだ。

けっこう丈夫なはずなのに、ミミズは体に巻き付いたロープを難なく引きちぎっている。


「ま、流石に無理だよねー。じゃあ次は数を増やすかな」


さっきと同じように腕を動かしているけど、今度はさっきよりもゆっくりと力を込めているように見えた。

するとその動きに合わせて、ミミズとその周りにある森の影から大量のロープが出てきた。

大量のロープが空高くまで上昇した後、最中ちゃんは腕を勢いよく振り下ろすと、すべてのロープが一斉にミミズへと向かっていく。

ロープはミミズの体に巻き付いたり、ホッチキスみたいに固定したりと色々な方法でミミズを止めようとしている。

ロープの数が増えたから、さっきよりもミミズの動きは遅くなってるみたいだ。それに引きちぎられるロープの数も少ないから、もしかしたらこれで動けなくなるかもしれない。


「——うっそぉ!?これ抜けるのー!?」


ぐるぐる巻きにして動かなくなったから、少し離れたところで車も止まった。これで終わりだと思っていたんだけど、全然そんな事は無かった。

高温の蒸気を全身から勢いよく噴き出した。

蒸気を出したのとほぼ同時に車は急発進して、ミミズは再びロープを引きちぎろうと暴れ回ると、あれだけ巻き付いていた沢山のロープがあっさりと千切れてしまった。


「あの数のロープでも動きを止められないなんて……」

「おーすごいなぁ。あいつ最中の拘束を易々と抜け出したよ。危険度は相当高くなるんじゃない?」

「まああの程度、最中なら大丈夫だよ」


私も最中ちゃんが強いのは知ってるけど、まさかあのミミズがここまで強いとは思ってなかったからちょっと心配。


「うーん……もっと強度を高めて、数も増やさないとダメかぁ~」


——してたんだけど、最中ちゃんは全然焦ったりもしてなくて普段通りだった。

しかもまだまだ余裕がありそうな顔をしてるし、もしかしたらまだ、考えというか、作戦みたいなのがあるのかもしれない。


「そういえば結構走ってるけどさ、町って近くにあったりする?」

「いいや無いけど。何で?」

「動けなくなったとしても、おとなしくなるのに時間がかかりそうだからさー。まあ近くに町は無いみたいだし、その心配はしなくてよさそうだねー」


今まで屋根の上でしゃがんでいた最中ちゃんがすくっと立ち上がった。

猛スピードで走っていたから風もすごいし、立っていたらバランスが崩れるから、しゃがんでいるんだと思っていたんだけど、どうやら違ったらしい。

もしこれから最中ちゃんが全力を出すんだとしたら、今までは手加減していたって事になるんだけど……。


(まさか、あの時話ができるかもって私が言ったからだったりして——)

「……ん?最中のヤツ、ようやくやる気になったね」

「え?じゃあ、今まではやる気が無かったって事?」

「ああいや、やる気が無かったわけじゃないと思うけど、そうだな……簡単に言うと、今までは本気じゃなかったって事。まあ見てたらわかるよ」

「そんな事言われても——」


私にはわかんないよって言おうとしてたんだけど、それを言う前に最中ちゃんの変化に気が付いた。

霧のような黒いモヤモヤが最中ちゃんから出ているような気がして、最初は気のせいか私の目が変になったのかと思ったんだけど、どっちも違った。

黒い霧の発生源は最中ちゃんじゃなくて、周りの影からぶくぶくと溢れるように出ている。

あふれ出た霧は最中ちゃんの周りに集まって黒い円ができていた。

その円はどんどん霧を吸い込んでいき、色は濃く、形も円から球体になり、最中ちゃんを包み込むほどに大きく成長している。


「ここまでやってあのミミズを捕獲できなかったらどうします?」

「そりゃあ逃げるしかないでしょ。とりあえずセブンたちが向かったアメリカの研究所まで行くしかない」

「まあでも、あれをやるくらいなんだから大丈夫だと思うけどね」


これでミミズを捕まえられなかったら、セブンたちがいるアメリカまで行くみたいだ。カナダここからアメリカってすごい離れてるはずだし、そもそもガソリンだって途中で入れなくちゃいけないだろうし、もし失敗したら車ごと食べられちゃうよね。


研究員さんたちが大丈夫って言ってるけど、あの霧でどうにかできる相手なのかな?あんなに沢山のロープで捕まえられなかったんだから、私には全然大丈夫なんて思えなかった。

けれど車に乗っている私以外の人たちは全然そんな心配をしている感じもしなかったし、なんなら最初よりもリラックスしているようにも見えた。


「——————!!!」


突然ミミズが咆哮し、今までにないくらい勢いよく蒸気を噴き出した。

あまりにお腹が減ったからなのか、それとも私たちを追ってはいたものの全然追いつけない事に対してさらに怒ったのか理由はわかんないけど、向かってくるスピードが速くなっている。


車と十数メートル離れていた距離はもうすぐそこまで縮まっていて、大きな口をさらに大きく開けて車を飲みこむ準備を始めていた。

霧の球体はその間も発生している霧を吸い込んでばかりだし、その中心にいるはずの最中ちゃんの姿はもう見えない。


「ひゃー!あんな歯だと、飲み込まれたら私たち仲良くミンチになっちゃうよ!」

「まあまあ。そんな慌てる事無いって。——ほら、もう準備が終わったみたいだ」

「えっと……準備って一体——」


話していた研究員さんは何も言わず、上を見なとばかりに指をさすだけ。

私は釣られるように上を見た。すると、黒い霧の球体からドロリと中身がこぼれ落ちた。

その事を私が理解した瞬間、シャボン玉が割れるように球体が弾け、中身がドバっとあふれ出した黒い霧の塊は、一直線にミミズへと向かっていく。

ミミズの巨大な体は一瞬のうちに霧に飲み込まれるとほぼ同時に、ズドドドッと激しい衝撃と大きな音が鳴った。

あの中で何が起きているのか全然わかんなかったけど、ミミズを覆っていた霧はすぐに無くなった。

ミミズの体は黒い鎖が何重にも巻き付いていたし、鎖の端っこは地面に突き刺さっていてしっかりと固定されている。

さっきよりも大きな咆哮をあげていて、鎖を引きちぎろうと動いているが、ロープの時と違ってモゾモゾと動くだけで鎖はびくともしない。


「ふー……やっと終わった~。悪いね時間かかっちゃって。あ、車止めていいよ」


出て行った時と同じように窓から戻って来たあと車は止まった。

天井に着いていたダイヤルに気が付くと、見られていたことがすぐにわかったらしく「見られてたの?恥ずかしいな~」って言いながら車を降りてミミズの所に走って行っちゃった。

最中ちゃんに続いて乗っていた研究員さん全員が車を降りて最中ちゃんの後を追って行ったけど、私は安全のためとミミズとの会話ができるかどうかを試すために車に残っていることにした。

だけど会話はできそうになかった。ミミズから伝わってくるのは怒ってるって事だけだから疲れるだけで、大人しくなるまで話さない事にした。


「こんな叫んでるんだし、全然元気そうだねー。スキャナーの結果は?」

「……安心できる数値じゃないよ。もしかしたら力を貯めてるのかも」

「まーたあの蒸気を出す気って事?あれ熱いからイヤなんだよね」

「そんな事よりうるさいんだけど。どうにかなんないの?」


車はミミズから少し離れた場所に止まっているのに、うるさいって思うくらいなんだから、あんな近くで聞いてたらうるさいってレベルじゃないと思う。


「はぁ、うるさいなあ……早くなんないかな」


この後、急にミミズが大人しくなってみんな驚いてた。

それにいきなりの事で理由が全然わかんないのもあると思うけど、土とかをいっぱい食べて満腹になったからかな?


そういえばセブンたちは何をやってるんだろう?

今回の変異生物の情報を送ってくれるっておじさんは言ってたけど、電話とか繋がらなかったみたいだし、あっちで何かあったのかな。

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