闇に包まれる地下

順路に沿って進んでいるはずなのに、先に行った三人の姿は一向に見えなかった。

それに一緒に来てくれているお姉さんも周りを見ながら「この辺あんま無いな……」って独り言を言っている。

何が無いのかは分からないけれど、入ってきてすぐのホームには資材や工具などが沢山置いてあったのに、今歩いている線路にはそういった物は無く移動用の乗り物があるだけ。先には所々に何かが置かれてるのが見えるだけで、人影は見えない……なんだか、みんなと合流できるかちょっと不安になってきた……。


「おっと、ごめん電話だ。ちょっと待っててくれない?」

「あ、はい。わかりました」


どうやらお姉さんに電話がかかって来たみたい。一応順路の案内があるから先に行っても迷わないだろうけど、待っててって言われちゃったし、近くにあった運搬用の小型列車を見てる事にした。


「もしもし永塚か?はいはい……ああそっちに行ってたんだ。それで今は上に?わかった。あたしらも行くから——」


でも周りが静かだしトンネルの中にいるから声が響いて、お姉さんの話してる内容全部私にも聞こえてくるのはちょっと困るなぁ。

他に誰かいれば気にならないんだけど……後ろから別の班が来る感じもしないし、どうしようかな。


(うわっ!ライトが眩しい……ってあれ?何か列車がこっちに来てる?)


私たちが歩いて来た線路とは反対の線路から何かがこっちに向かってきていた。聞こえてくる音からしてある程度速い速度で走っているみたい。

今まで見てたこの列車の影に隠れて通り過ぎるのを待っていようかと思っていたんだけど、後ろから手をつかまれて列車のそばから離されてしまった。


「そこにいると死ぬぞ」


その言葉の意味がよく理解できなくって、どういうことか聞こうとしたんだけど、聞く前にそれは起こった。


「え?何で列車が……」

「危ないからもっと下がって。それと身を隠す場所を探して隠れた方がいい」


さっきまで見ていた列車が二つの線路をふさぐように横に倒れた。あまりに急で、それに何で倒れたのかもわからず動くことも忘れて、お姉さんの後ろにいる事しか出来なかった。

そしてお姉さんに手を引かれながら倒れた列車から離れていき、言い終わるとほぼ同時に横倒しになった列車が爆発を起こした。


「うわーっ!」

「チッ、あいつら爆弾仕掛けてやがったな……」


爆風に飛ばされそうになった私を抱えたお姉さんは地面に伏せ、後方を見ている。


「破壊するのは極力抑えるように言われてたんだけど……なっ!」

「こ、今度はトンネルが崩れるなんて……私死んじゃうかも」

「そんなわけないだろ。ほら立って。早く行かないと本当に死ぬぞ」


まさかこんな事になるなんて思ってもいなかったから、この線路内の出入り口があるホームと私たちのいる所は少し離れている。

とは言ってもここから見えるし、走って行けば三分程度で行けるくらいのはずなんだけど……無事に戻れるといいなぁ。


「君が後ろだと危ないから、あたしより前を走って!」

「は、はい!」


あまりの気迫につい返事をしちゃったけど、まだ危険って事でいいのかな……?あれだけの爆発があって、しかもトンネルの天井部分が崩れちゃったし……連鎖が起こってこの辺のトンネル全部崩れちゃうのかもしれない。だからお姉さんはあんなに急いでたのかも……って事はもっと速く走らないとダメじゃん!


お姉さんを追い越してホームまでもう少しって所まで来た時の事だった。後ろからパンッといった感じの破裂音が聞こえたと思ったら、立て続けにその破裂音がトンネル内に響き始めた。


(……まさか銃を撃ってるわけないよね?)


本物の銃を撃った音なんて聞いたこと無いから知らないんだけど、映画とかアニメとかで聞いたのはこんな感じだったし……どうなんだろう。まさか本当に銃なんてことは——。



「なに突っ立ってんだ!早く伏せろって!」

「な、何でですか?もう終わったんじゃ……」

「んなわけないだろ。今ので分かったか?」


ずっと走りっぱなしだったから、立ち止まって休憩していると、後ろから来たお姉さんが柱の陰に私を連れてきた。

なんでかを聞く前に、ダダダダッって衝撃と共に私たちが隠れている柱と周りの床に穴が開き、コンクリートの破片が辺りに散らばった。

これだけの事を見たら、流石の私でも何が起きているのかくらいは理解できる。

でも、返事をする余裕なんてないから首を縦に振ることしかできなかった。

しかし、それだけで私に余裕が無い事をある程度察してくれたのか、話を続けてくれた。


「今銃を撃ってる奴らの狙いは君だ。チッ、数が多いな……!」


舌打ちした後に、周囲に積まれていた資材——主に鉄筋コンクリートに使っている鉄の棒がすごい速さで飛んで行った。

それが刺さったのか銃声が止み、代わりに多くの悲鳴が聞こえてくる。

私はただの鉄の棒が飛んでいく様子に目を奪われたけど、今日と言うかトンネル内で色々と起きているから、あんまり考えないようにすることにしよう……。


「どこまで話したっけ……ああそうだ。あたしがあいつらを片付けるまでここに隠れてて。それと出口すぐそこだけど、ここから出たら撃たれるから気を付けてね」


一通り言い終わったお姉さんは柱の影から出て行った。銃で撃たれているはずなのに焦ることなく、ただ普通に歩いて行ってしまった。


(銃を撃ってる音は聞こえてくるのに、何で歩いているお姉さんには一つも当たってないんだろう?まさか超能力者……って流石にそれは無いか)


柱から姿を見せたからなのか銃弾がお姉さんへと集中しているみたいで、私の隠れている場所には一発も撃たれていない。もしかしたら、今なら何が起きているのか覗いてみても大丈夫そうかな……?

でもお姉さんは狙われてるって言ってたし顔を出すのは止めておこう。こういう時に手鏡でもあればいいんだけど、今持ってるので使えそうなのはスマホだけ。


「う~ん……自撮りモードなら見えるかも。ちょっと試してみよ」


自撮りなんてしないし使い慣れてないから、角度の調節とか難しい。

どうにかして見ようと試行錯誤していると——。


「おい!いい加減そこに隠れてる奴をこっちに引き渡してくれよ。そうしてくれたらお前の命は保証してやるから」

「は?寝ぼけてんのか?お前らそんな要求できるほど優位に立ってないだろ。黙って引き返すか、ここで全員死ぬかのどっちかを選べよ」


よ、よく分からないけど、お姉さんはすっごい強気だ。顔は見えないのに、どんなひ表情でいるのかが想像できる。

それにやっぱりあの人たちの狙いは私みたいだし、引き渡してくれって事は殺す気は無いのかな。


「うちのじい様が今までにないくらい手に入れたいみたいでよぉ……あんたが大人しく引き渡してくれれば、地上うえに死体の山が出来上がることも無いんだけどな」

「はぁー……本当に話の通じない奴だな。お前が連れてた連中は半分以上死んでるってのに、どこからそんな余裕が出てくるんだか」

「どこからって、そりゃあ世界を手中に収めるモノが目の前に転がってんだぜ?それが手に入るってんなら地上の連中を皆殺しにするくらい何てことねーよ」

「おいおい、マジでそんな事考えてんのかよ。やっぱ頭おかしいわ、お前ら」


今襲って来たあの人たちが言ったこと、私にもはっきりと聞こえてはいたんだけど……その内容に呆然としてしまってよく理解できていなかった。


(……え?地上に居る人たちを皆殺しって、学校の皆も殺されちゃうってこと?)


そんな考えが頭に浮かんでくると同時に、目の奥がチリチリとわずかに痛む。そのせいか視界もぼやけているし、頭も動かず上手く考えられなくなっていた。

ぼんやりとした頭で考えた結果思い出したのは、前にあった美咲が誘拐されかけた事件。

その時とをすれば、今銃を撃っているあいつらが一人残らずここからいなくなるんじゃないだろうか。


(——じゃあ皆殺しにしてどうにかしてここから出なきゃ)


この結論に達した時、さっきまで緊張してドキドキしていたはずの心臓が落ち着きを取り戻し、ぼんやりとしていた視界と思考もスッキリし、これからするべきことを考える。

と言っても目的は決まっているから、こんなところに隠れている場合じゃない。


隠れていた時なんて手も足も出せないくらい弾が怖かったのに、今じゃそんな恐怖ことを忘れて、さっきお姉さんが出て行ったのと同じように物陰から私も出ていく。


今なら何でもできそうな気がした。

そんな高揚感と共に天井が黒く染まっていく。

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