品川の宇宙港
「まさかリニアモーターカーの見学に行くことになるなんて思わなかったな。彼方は予想できた?」
「いやー流石に予想外だったかな。行くんだとしても工場とかだと思ってたし」
テストが終わって次の週。駅から学校まで向かう道のりで、先週聞いた見学の事を話しをしていた。
「しかも無料ってのがすごいよね」
「校長先生の友達なんだっけ?費用は全額
「さあ?あたしには分かんないけど……校長先生とすごい仲が良いんじゃない?」
「だとしたら長い付き合いなんだろうね」
招待してくれた理由を難しく考えちゃうけど、結構単純な理由なんだろうな。
見学に行く日はいつのなるんだろう?今日はもしかしたら見学の日時と班決めでもするかもしれない。
「先週伝えた通り今度見学に行くんだけど、その日程は来週の……六月初旬になったから。この後詳しい説明するからちょっと残ってね」
「えー今日も授業が終わった後に説明するのー?早く帰れると思ってたのに」
「部活の時間短くなるの嫌だなぁ……」
「仕方ないだろう。いきなり決まった事で説明の時間が取れないんだから」
初めは何人かのクラスメイトから文句の声が上がってたが、彼女らも時間が確保できない事は分かっているのかすぐに静かになった。
「説明する事は沢山あるけど、早く部活に行きたい人や帰りたい人が多いだろうから手早く説明していくからしっかり聞くように。覚えられそうに無かったらメモにでも書いてくれ」
先生のその言葉と共に皆はカバンからメモ帳やノートを取り出していく。そしてメモを取る準備が終わったのを先生が確認すると説明が始まった。
「まず最初に見学するときの班分けなんだが……席の並び順で四人ずつ分けると丁度九班に分けられるから、時間もないしこれで決まりね。そして見学のスケジュールは大まかに午前と午後で分かれてて、AとBが午前でCとDが午後。うちは午後だから間違えないように」
「え?じゃあ午前中に私らは何をするんですか?」
「……うちのクラスは午後に現地に向かうって事でいいのかな?」
「他に見るとこ無いならそうかもねー」
「生徒同士で話をするのは良いけど、ここからが大事だからしっかり聞いてくれ」
(まあ流石に午後だけなんてことは無いよね)
「全クラス一緒に現地に行くから分かれる事はないよ。それで午前中は建設中の駅を見学する事になったから寝坊とかするんじゃないぞ。じゃあ説明はこれで終わり」
先生が教室から出て行くと同時に部活に行く人も行ってしまった。それ以外の人は帰る準備は済んでるみたいだけど、帰る様子はなく班のメンバーと話している。
それは私の班も同様に——。
「どうした橋本。なんかあんま喋んないじゃん」
「まさか落ち込んでんのー?なんかあったっけ?空森ちゃん理由とか知らない?」
「いやー流石に分からないかな……橋本さんが落ち込むって何があったの?」
私が帰る準備をしている間に
いつもよく喋っているのを見てるから流石に何かあったって事くらいは私にでも分かる。……でも、さっきの説明で気分が落ち込むようなことでもあったかな?
「別に落ち込んでは無いんだけどさ……うちのクラスって午後から見学するって言ってたでしょ?だから午前中は別の所に行かないかなって期待してたんだけど——」
「あー……そういえば品川の埋め立て地になんかがあるって言ってたっけ」
「前に橋本から聞いた気がするんだけど、あんまり覚えてないや。確か港が出来たとか言ってたような……」
「へー、橋本さんって星以外に船とかにも興味があったんだ。私知らなかったよ」
「いやいや全然違うから!港は港でも私が言ったのは宇宙港の事だから!」
橋本さんが船が好きなんて意外だなと思っていたら、どうやら違うらしい。橋本さんの言う宇宙港なんてものが品川にあるなんて聞いた事が無いんだけど、いつそんな施設が出来たんだろう?
「そーそー。そんな感じのやつだったよね」
「調べても宇宙研究センターってのはあるんだけど、宇宙港なんてどこにも書いて無くない?」
「なるほどー、橋本さんが言ってたのはここの事なんだ」
「確かに宇宙研究センターって書いてあるけど、ここの所長さんが十年以内に宇宙港にするんだってインタビューに答えてた……と思う」
「そこが肝心なのに覚えて無いのかよ」
私もそうは思ったけど、堀内さんは中々鋭いところを突くなぁ……なんだか橋本さんもさっきより落ち込んでるように見えるのはきっと気のせいじゃないはず。
「一つ気になってるのがさーこの細長い建物って何なの?」
さっきからスマホで何かを見ていた井坂さんが質問をしていた。私も画面を見せてもらうと、周辺の建物よりも背の高い塔が映っていた。見た感じアンテナってわけでもなさそうだけど、ちょっと気になる。
「このタワーって私もよく分からないんだよね。あくまで噂でしかないんだけど、宇宙ステーションに向けて物資をここから打ち上げてるって言われてたりしててさ」
「ふーん、今ってロケットとか使わないで宇宙まで行けるようになったんだ」
「それ本当?だとしたらすごいなぁ」
なんだか今すごい未来の技術を聞いてるような気になって来た。どんな仕組みなのかは分からないけれど、あそこから発射されたらあっという間に宇宙に行けちゃうんだって考えると、あと何年かしたら宇宙旅行が出来ちゃうって事なのかも……?
「あたし、そういった話全く聞いたこと無いんだけど……」
「ま、まあこれ人はまだ乗れないみたいだから、あんまり報道とかされてないんだよね。一応調べれば出てくるんだけど」
「ん?もうこんな時間じゃん。そろそろ帰らない?」
そんなに長い時間話してる感じはしなかったんだけど、いつの間にか私たち以外のクラスメイトは教室からいなくなっていた。
「空森ちゃんは先帰っててもいいよ?あたしらはまだ帰る準備できてないし」
「じゃあみんな、また明日ね」
三人に別れの挨拶をして教室を出て階段を降り下駄箱へ向かうと、ちょうど美咲が靴を履いているところだった。
「美咲もまだ学校に居たんだ。先に帰ったと思ってたよ」
「別に彼方を待ってたわけじゃないんだけどね。今日も母さんが迎えに来るって言うから図書室に居たんだ。ちょうどいいから彼方も一緒に帰らない?」
「え?いいの?最近送ってもらってばっかりだから、気が引けるんだけど……」
「いいっていいって!母さんも気にしないと思うし行こ行こ!」
送ってもらう気は無かったんだけど美咲の勢いに押されて送ってもらう事になった。美咲のお母さんに嫌な顔でもされるかと思ってたら、別にそんなことは無くってむしろ喜んでた。「車内が賑やかになるから」とかなんとか……それを聞いたら妙にむず痒い感覚が……。
帰りの車の中から遠くの方に見える高いビルが目に入ると、橋本さんが言ってたこと——品川にある宇宙港の事を思い出した。
写真でしか見てないからどれだけ大きいのかは分からないけれど、相当な大きさがあることだけは分かっている。
(美咲か美咲のお母さんのどっちかは宇宙港の事知らないかな?……流石に美咲は知らないかも。そういう事には興味なさそうだし、そう言ったことを美咲から聞いたこともないし)
「どうしたの彼方?あ、あたしの顔ずっと見てるけどなんか変なとこがあった?」
「あんたが間抜けな顔してたんじゃないの?」
「間抜けなって……母さん酷くない?彼方もそう思って見てたわけじゃないよね?」
「ごめん、ちょっと考え事してただけ——」
「そういえば今度、品川の方に見学に行くらしいじゃない。見に行くのって……確か工事現場だっけ?」
「この前言ったばっかなのに母さん覚えてないの?リニアの工事現場を見に行くって言ったじゃん」
その後も会話は続いたんだけど、その中で宇宙港もしくは宇宙研究センターなんて言葉は全然出てこなかった。
もしかして全然知られてないんじゃ……。それとも秘密の研究所とかだったり、なんてことを考えちゃうけれど、もし本当に知られちゃいけない所なんだとしたら私たち暗殺とか……これ以上考えるのは止めよう。なんだか怖くなってきた。
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