情報収集
『——この前の大量逮捕あったでしょ?やっぱりあれはアジア連合マフィアが仕掛けてきたみたい』
あれから二日後、望さんから連絡が入った。
先日のあれを引き起こしたのは、どうやらアジアに巣くうマフィアの連中らしいが、特に驚きは無かった。
「アジアンマフィアの連中が仕掛けてきたんですか?去年国内の奴らを一掃したばっかなのに懲りてないんですね」
『まぁ……懲りてないって言うか……何としてでも
「構成員は既に入国してるんですか?」
『ええ、既に空路と海路で全国各地に大勢が入ってきてる。それの確保及び排除はしてるんだけど、数が多いから完全排除はできてなくてね』
「仕方ないんじゃないですか?星典適合者少ないですし」
『それもあるけど、とにかく入ってくる数が多いんだよ。これだとマフィアの構成員ほぼ全員が来てるんじゃない?』
「そんなに多いのか……」
星典適合者が少ないって言った後に気付いたけど、たかがマフィアの構成員程度では星典が無くたって十分に対応はできる。
それでも対応しきれてないって、どれだけの人数が来てるんだか……って言うかそれだけの人数で何をする気なんだ?
この前よりも規模が大きくなることだけは間違いないし、その目的だけは早めに把握しておきたい。
「それだけの人数がいるのなら、あたしらのどっちかが向かった方がいいと思うんですけど」
『猫の手も借りたいくらい忙しいけども、流石に
確かに望さんの言う事も一理あるが、こっちにまで被害が及ぶ前に全員始末した方がいいのではないかと考えはしたけれど、流石にあたしらのどっちかが加わったところでカバーしきれない。
どうせ目的はただ一つだけなんだから、こっちから向かわずとも勝手にやって来るだろう。それにあたしらが要れば大抵の事はどうにかなるだろうし。
「わかりました。こっちに来た奴らは全員始末しちゃってもいいんですよね?」
『う~ん……許可は出しずらいけど、数も多いから仕方ないか。でもすぐに回収班を呼ぶことが条件だから。じゃあよろしくね』
「望さんなんて言ってました?」
「今回の件アジア連合マフィアの連中が関わってるみたいでさ、今は構成員が来てるみたいだ。しかも数が多くて排除に手こずってるんだって」
「あー……だから最近解析班も忙しそうにしてたんですね」
しかし、情報を集めるにしても今別行動をするのが良いとは思えないし、これからどうしようか……。
「どうしたんですか奥沢さん。時間ですし早く行かないと……それとも何かあったんですか?」
「ん?ああ、相手の目的を知るために情報収集でもしようかと思ったんだけどさ、流石に別行動するわけにもいかないだろ?」
「それで悩んでいたんですね。この前の事もあったから、そんなすぐには行動しないと思いますけど……」
「まあ考えても仕方ない。とりあえず今日は
何かしら行動を起こしてくるかと思っていたんだけ、何事も無く学校が終わってしまった。
「結構な人数が来てるって聞いてたから、何かしらの動きを見せると思ってたんだけど……今のところ何も無いな」
「ついこの前失敗したばかりですし、単純な事はしてこないんじゃないですか?」
「数で攻めたのが失敗したし、今度は金でどうにかしようと考えてたりするんじゃない?」
「それもありそうですね……ってなんだか賑やかですね」
永塚が教室の方を見ながらそう言った。あたしも双眼鏡を覗いてみると、何かが発表されたのか盛り上がっていた。
「結構盛り上がってるけど、今月の予定って他になんかあったっけ?」
「いえ、今月は特に無かったと思います」
「ふーん……なら予定に無かったことでも言われたんだろうな」
「ちょっと私聞いてきます」
「おいおい大丈夫か?人も多いし、見られたら面倒だぞ」
「すぐに戻りますし、流石にそんなミスしないですって」
少々心配だが、まあ大丈夫だろう。しかし、急に予定が入ったんだとしてもそれが何なのか予想がつかない。
流石に修学旅行とかは無いとは思うけど、どっかに出かける可能性はありそうだ。
「——思ってたよりも速かったけど、何か分かった?」
「それはすぐに分かりました。どうやら今度リニアモーターカーの工事現場へ見学しに行くことが急遽決まったみたいなんです」
「え?リニアの見学に行くのか。しかも急に決まったってのが何とも怪しいけど……調べてみてもいいなこれ」
「なら一応、解析班にも調査の依頼をしておきますね」
「解析班も今忙しいみたいだから、あんまり期待はできないかもよ」
おそらく依頼すればこっちの方優先されるかもしれないが、それにしても時間は掛かるだろう。調査依頼を出してる間、あたしらでも調べた方がいいかもしれないな。
「あたしは今日の夜から調べに行こうと思ってるんだ」
「今日の夜空って急ですね。行く当てとかはあるんですか?」
「この前捕まえた連中が集まってたところに、何か残ってるんじゃないかと思うんだよね。とりあえず今日はそこに行くつもりなんだけど、永塚はどうする?」
「私ですか?そうですね……調べるとしたら、彼女の家から近いところですかね。夜でも油断はできないですし」
「まあ、そうなるよな」
調査に出かけたのは深夜になってから。出かけようと思えばもっと早い時間に行くこともできたが、もし誰かが居たら面倒ごとになりかねないし、あんまり人目の無い時間帯の方がよかった。
そう思っていたんだが——。
「あれ?おねーさん、こんな時間になんか用でもあんの?」
「しかもここ廃工場だぜ?あんたが期待してるのは無いと思うけどなー」
「最近は来てないけど、ついこの前までやばい連中がわんさかいたんだし、いつ帰って来るか分かんないし帰った方がいいよ」
既に男女三人の先客がいた。おそらく捕まえた連中の仲間だとは思うんだが、あいつらほど危険そうな感じは無いんだけど、場合によってはまとめて始末することも考えておかないとな。
「ここに集まってるのって今はお前らだけか?」
「ちょっと前……四日くらい前かな?そこまでは大勢いたんだけど、それを境にみんな来なくなっちゃってさ。今じゃこの三人だけ」
「そーなんだよ。こんな感じのバイトのメッセージが来てさ、報酬が良いからみんなそれに釣られて行っちまったんだけど、流石に怪しくて俺たちは行かなかったんだ」
「なるほどね……そのメッセージって一人一人に送られてきたのか?それとも代表者一人だけ?」
「うちのとこにも来てたし、みんなにも来てたんじゃない?」
「ほらこんな感じで私の所にもきてる」
見せられたスマホの画面には直接送られてきたメッセージが表示されていた。海外の企業とかから送信されているのかと思ってたらそうでもなく、個人のアカウントのようだ。
後で調べてもらうためにそのアカウントを覚えている時、外から微かな足音が聞こえてきた気がした。
(……誰かが来たっぽいけど、こいつらが呼んだのか?……流石に違うよな。もしこいつらが手引きしてたら、もっと不自然な行動とかしてそうだし。って事はこいつらを始末しに来たってわけか……ちょうどいい)
「それで仕事の内容がこの人の事を調べろっての見て、俺たちは参加しなかったんだよね。報酬だって最低でも一千万なの流石に怪しいでしょ?」
「ん?そうだな……一千万か」
「おねーさんどうしたの?私ら以外に誰もいないはずだけど、外で何か気になることでもあった?」
「まあ気のせいだったらいいんだが……おい、こそこそ隠れてないでいい加減出てきたらどうなんだ?」
最後に足音が聞こえた方向を向いてそう声を出すと、暗がりから一人の男がゆっくりと現れた。その手にはマシンガンのような銃が握られていて、銃口がこっちに向けられている。
どうやら殺しに来たみたいだが、あの程度ならどうにかなりそう。もしロケットランチャーとかを持ってこられたら、流石に無傷じゃすまなかったな。
だが問題なのが他の三人だ。手に持ってる銃を見て頭が真っ白になってるのか、呆然とした顔で立ち止まってる。
「お前ら死にたくなきゃさっさと伏せな」
「おいおい!あれマジかよ!」
「伏せたって死ぬって!」
「ちょっとおねーさんはどうすんのさ!」
「——銃を向けられてるのにずいぶんと余裕があるんだな」
出てきただけでそれ以外の行動を起こさなかった男がようやく口を開いた。
「別に慣れてるってだけだ。と言うかお前、ずいぶん流暢に話せるんだな。この国にいた
「そうか……やはりお前たちの仕業だったのか」
そう言い終わると同時に引き金が引かれた。
サプレッサーを付けているのか、タタタタッと軽い音とともに大量の銃弾がバラまかれる。
だが
さっきまで表情一つ変えなかった奴が、マガジンの弾全部撃ち尽くしたのにも関わらず、棒立ちのあたしの体がハチの巣になってない事に驚愕の表情を浮かべている。
「な、何で撃った弾がお前の正面で止まってんだよ……!?」
「この状況聞きたい事はあるだろうが、こっちだって聞きたい事は山ほどあるんだ。まあ別に話したくないってんならそれでもいい。あたしも手間が省けるしな」
「分かった!全部話すから——」
「は?何言ってんだお前。そういう嘘いいから、前に散々聞いたし」
撃たれた弾をそのまま何発か撃ち返す。弾は手足に命中し、大量とはいかないまでもある程度出血しているのが確認できた。本当は全部撃ち返してハチの巣にしてやりたいんだけど。
「速く回収班を要請しないとな」
この出血じゃすぐには死なないだろうけど、後々記憶障害とかでも起きたら生け捕りにした意味が無い。
それに伏せてた三人もいるし、あたし説明があんまり得意じゃないから隠蔽班にも来てもらわないと……。
「だ……誰も怪我してないのかな……?」
「おねーさん助けてくれてありがとー」
「さっきの男の人は……すごい血が出てるけど、死んじゃったんですか?」
「死んじゃいないよ。お前らこんな遅い時間にこんなところに居たら、多分次も来るぞ。死にたくなかったら夜は出歩かない事だな」
高校生、もしくは大学生くらいの女の子は安堵したのか涙が出ていた。それをもう一人が落ち着かせている。
「—―来たか思ってたよりも早かったな」
連絡してから数分で廃工場の敷地内に回収班らの車が入って来た。これであとは任せて帰ることができる。
「じゃあそこに転がってるの回収してくれればいいかな」
「分かりました。それで怪我の処置はどの程度までとかありますか?なければ元の状態まで戻しますけど」
「あー、そうだな……とりあえず会話ができる程度まででいいだろ」
「じゃあそのように処置しておきます。あとは隠蔽班に任せても大丈夫そうですね」
「そして隠蔽班は……そこの三人に説明をして家まで送ってやってくれ」
「了解でーす。ならさっさと行きましょう。三人とも車に乗ってください」
その三人はいきなり車に乗ってくれなんて言われて戸惑っているようだが、ここに居るよりはマシだと思ったのか車に向かっていく。
そしてそのうちの一人があたしらに向けてこう問いかけた。
「——あの、あなたたちは一体何者なんですか?」
なんて答えればいいのか少し迷った。正直に話したところで頭がおかしい連中だと思われかねないし、かといって何も言わなかったら不安にさせるだけだし、歩きで帰るなんて言われたら後々面倒能登になる。どうするべきか……。
「……今日あったことは夢みたいなものだって思って忘れた方がいい。それでも知りたければ車内で聞いてくれ」
こういったことを考えるのが上手くないから、隠蔽班に丸投げする事しか出来なかった。せめて時間があれば誤魔化せる案でも思いついたかもしれないけど、こういうのは永塚の方が得意だから、来るのはあたしじゃない方がよかったかもな。
出ていく車を見送った後に廃工場を後にする。
しかし、思ってたよりも情報を得る事が出来たことに自分でも驚きだ。メッセージの送り主のアカウント情報も入手できたし、敵も捕まえられた。
……これは明日以降も忙しくなるかもしれないな。
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