監視対象:空森彼方
あたしたちは都内のホテルの一室で備え付けの椅子に座り、仕事の内容を確認していた。
「——なあ永塚。あたしたちが監視するのって、本当にこいつで合ってんの?」
「その子で合ってますよ奥沢さん。もう……何回聞くんですか?」
自分では気づいて無かったけど、奥沢の言うには何度も聞いてたみたいだ。
……正直何度でも聞きたくなる。監視の調査が言い渡されたのだが、監視なんて新人に任せてもいい仕事のはずだ。
まあ……書いてあることを見ればあたしたちに任された理由がよく分かる。この内容が本当だとしたら、
「ふーん、この子がねぇ……ここに書いてあること信じられるか?」
「正直私は半信半疑ですけどね。でも、それをこれから確認しに行くんですから」
「……そりゃあ、そうなんだけどさ」
手元の紙に目をやると
『先日発生した、星々の強制移動。その範囲の広さを考えても、彼女は最低でもランクは銀河と考えられる』
こう書いてある隣には強制移動が確認された表が記載されているが、ランクは銀河じゃなくて宇宙でもいいだろうと言いたくなる。
まあ、今からそれをあたしたちが確認するんだけどさ。
「でもすごいですよね。銀河の瞳なんて数十年ぶりなんじゃないですか?」
「知れ渡ったら欲しがる奴は大勢いるな。星の瞳ですら狙われるんだ。宙からも来るんだろうな……さてどんな奴らが来るかね」
「来ることは確定なんですね。私としてはあんまり来てほしくないですけど……」
「そんなわけないだろう。国内外の連中は
既に海外からの入国者が先月から増加してるとも書いてある。おそらく情報収集にでも来たんだろう。
数週間はそいつらを追い払う程度で済むかもしれないが、いずれ手に負えなくなる日が来るはずだ。
「監視は明日からか。彼女が家を出てから家に帰るまで見てればいいのか。……って夜はどうするんだ?周り住宅街だしホテルも無いだろ?」
「一応複数のカメラを家の周辺に配置されてるみたいです。これがそのリアルタイム映像ですよ」
差し出された端末には住宅街の映像が映し出されている。画面に表示されている切り替えボタンを押してみると、他のカメラに切り替わるのだが、その数が結構多い。
「カメラの数多くないか?」
「今回は何が起きるか想像もできないですからね。念には念を入れて備えたんじゃないですか?人も多いですし、事が起こる前に対処したいじゃないですか」
「それもそうか……死人が出るよりはいいな。夜中は交代でこれ見るってことでいいのか?」
「そんなわけないじゃないですか。何かがあったらアラートで知らせてくれるようになってますから、別に寝ても大丈夫ですよ」
「寝れるのは良いけど、何かあったら叩き起こされるって事か……」
「それに関しては諦めてください。そんな事より早く寝ましょう。明日は動き回るんですから」
そう言うと永塚は電気を消しさっさとベッドに横たわると、数分で眠ったみたいだ。
こっちも同じようにベッドに横になって目を閉じた。
「やっぱり
「そうですよ。隣の駅で乗り換えですね」
「分かった。……この混雑具合だとお前が先回りしてもいいんじゃないか?」
「確かに私が先回りするのもありですけど、先回りした先で敵と遭遇した場合に私だと対処できないかもしれないじゃないですか。戦闘においては奥沢さんの方が優れてますし」
「何が起きてもいいように二人で行動するか」
「あっ、この電車に乗るみたいです」
通勤ラッシュで人の多い車内に何とか乗り込み、ドアが閉まる。何とも言えない強烈な圧力を全身に感じるのは久しぶりだ。
……久しぶりと言っても二度と体験したくないものだし、仕事じゃなきゃこの時間帯の電車なんかに乗りたくもない。
「一駅でだけだってのに疲れた気がするな……気のせいか?まあ、何というか学生時代を思い出すよ」
「久しぶりに乗るとキツイですね……それにしても人多いですけど、空森さんを見てる奴もいますね」
「あの子にバレなきゃいいって思ってんのかもしんないけどさ、分かりやすいの多いな。反対側にも何人かいるし」
「一応
永塚がかけている眼鏡は顔認証が可能なもの。スキャンした顔をリアルタイムで送信し解析班が調査を行って、敵かどうかを判別するものだ。
まさかここまで見に来てる奴が多いとは思わなかったから、持ってきてよかった。
今日でこの人数なら、これからはずっと所持してた方がいいな。
「あ、空森さん誰かと話してますよ。友達みたいですけど、ここで毎日待ち合わせて学校に行ってるんですかね?」
「見るからに仲が良さそうだし、その通りだと思うけど……あれ下手したら友達も巻き込まれる可能性あるな」
「ターゲットだけじゃなく周りも巻き込む人よくいますからね」
「仮にいたとしても行動起こす前に始末すればいいし」
「それは流石に厳しいんじゃないですかね?被害が出る前に何とか出来ればいいですけど」
「あーよかった。こっちは空いてる」
「反対側は凄い混雑してますけど……」
「あっちじゃなくてよかったよ。いや、ほんとに」
吉祥寺に着いてから空森彼方の通う高校への通学路は学生が多く、あたしらみたいな大人の姿はまばらで、見かけたとしても大体は駅の方に向かう人だけ。
何が言いたいのかと言うと、あたしたちは今すごく目立ってる。
「なあ。この時間から学生の多い通学路を歩くのは流石に目立ってないか?」
「まあ、大人がいたとしても大半が駅の方に行ってますから。私たちの服装も目立ってるのかもしれないですね」
「二人してスーツ着てるから教師と間違われてる可能性もありそうだ。明日からはスーツ以外の服を着るか」
「もしかしたら大人が二人でいる事が問題だったりするんでしょうか?」
「それもありそうだな……」
理由はまだはっきりしないが、この先もずっと目立つのは非常に良くない。
明日までには何か考えておかないと……。
生徒たちはもう学校へ行ったのか、先ほどの賑わいが嘘のように通学路は静まり返っていた。
「なぁ……あたしって監視向いてないんじゃないか?」
「監視の仕事は奥沢さんでもできますけど、今回は高校生だから難しいのかもしれませんね」
「やっぱりそう思うよな。学校の時間は永塚だけでいいんじゃないか?お前気体にもなれるから見つかりにくいしさ」
「確かに私はこういうの向いてますし、学校の間なら一人でも問題は無さそうですけど、私が一人で監視してる間は奥沢さんは何してるつもりなんですか?」
「えーっと何もすることないし、今日は駅周辺に居ようかな。その時に当主様にでもどうするか聞こうと思う」
「今日はそうしましょうか。何かあったら連絡します」
永塚はそう言うと煙のように消えた。
いつ見ても永塚の
それをやる方は色々大変だったりするんだけど、私からしたら羨ましい限りだ。
永塚と別れた後、駅前まで戻って来たが、一応暇になったからと言って、呑気に休んでいる暇なんてない。当主様に連絡をして監視の仕事をどうするか相談しないと。
「——もしもし。奥沢です」
『あら奥沢。どうしたの?何かあった?』
「今回の監視について少しばかり問題がありまして——」
『ああ、空森さんって昼間は学校に通ってるから監視がやりずらいって事ね』
「その事なんですが、やっぱりあたしって監視には向いて無いと思うんです」
『なるほどね。あなたの言いたい事はわかったわ。でも、変更は考えていないの』
「変更しなくていいんですか?このままだと昼間は何にも役に立たないですけど」
『役に立たないのは今だけよ。国内の暴力団系のグループが都内で数を増やしてるみたいなの。早くて数日、遅くても今月中には何かしらの動きがあると思って警戒しておいて』
「数日ですか……分かりました」
『あ、一つい忘れていたわ。学校のある昼間は自由にしてもいいわよ?ただし駅の周辺って制限はあるけど、あなたはあんまり休まないから、この機会にちょっとでもいいから休んでおくのよ?』
「わ、分かりました」
あんまり休む気はしないが、当主様から直々に言われてしまったら休まないわけにはいかない。
それに数日以内にあるかもしれない襲撃に備えておかないとな……数が増えてるって言ってたし、いつ来てもいいようにしておかないと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます