日常
「彼方ー。朝よもう起きなさい」
「う~ん……」
カーテンを開けられて太陽の光が部屋に入り、強制的に目が覚める。
でも……まだ眠い……。昨日夜遅くまで漫画を読んでいたから、もうちょっと寝ていたかった。
「昨日寝るの遅かったから……あとちょっとだけ……」
「何寝ぼけた事言ってるの。もうそろそろ起きないと遅れるわよー」
お母さんのその言葉を聞くまでは、まだ全然余裕あるでしょなんて考えていたけど、不安になってきて枕元にある目覚まし時計を取った。
「うえぇ!?もうこんな時間だったの!」
さっきまで眠かった頭が一気に覚醒するくらいの衝撃があった。時計の針はもう七時を回っていて、まだ間に合う時間だけどゆっくり準備してる場合じゃない。
急いで着替えて部屋を出て階段を駆け下りる。洗面所に駆け込むと先にお父さんが使ってた。
「おはよう、彼方。今日は遅いんだな」
「お父さんおはよう!急いでるから先使わせて!」
「ああ、いいよ。遅れるんじゃないぞ~」
「……分かってるって」
急いで顔を洗って、歯を磨いてリビングに飛び込んだ。
先に起きていた妹が朝ご飯を食べていたんだけど、私が来ると驚いた顔で私を見ていた。
「おねーちゃん、もっと静かに入ってきてよ。びっくりしたじゃん」
「あはは……ごめんごめん。急いでたからさ」
「こんなに慌ててるなら、何でギリギリまで寝てたのさ」
「彼方は夜遅くまで漫画とか読んでたみたいなのよ」
「ちょっとお母さん!星奈に言わなくても——」
「何やってるのさ……もっとしっかりしてよね~」
「ゔっ……次から気をつけます……」
妹に呆れられてしまった……。別に寝坊した原因を言うのは良いけど、私の目の前で言われるとちょっとキツイ。いや……私が悪いんだけどさ。
「なにぼーっとしてるの?ほら、早く食べていきなさい」
「はっ、もたもたしてたら遅刻する!いただきまーす」
急いで用意されていた朝ご飯を早く食べようとしても、いつもより量が多いような気がする。まあ、急いで食べなきゃいけないから、多く感じるだけなのかもしれないんだけどさ……。
余計な事を考えてると食べる手が止まっちゃうし、集中して食べないと——
「ごちそうさま!いってきまーす!」
「いってらっしゃい。気を付けるのよー」
ズシリと重いカバンを持って、急いで靴を履き家を飛び出す。
遅刻ギリギリだし、走りながらスマホで最寄り駅の時刻表を調べてみても、何というか……こう丁度いい感じの電車が無かった。
「流石に都合よく、来るわけないよね。まあいいや。
普段は
流石に少し不安になってきたから走るペースを上げた。
「はぁーっ……はぁーっ……つ、疲れた。ちょっとペース早くしすぎたかな……?」
いつもなら大体十分くらいかかる距離を、その半分の五分で駆け抜けたみたい。朝一番で頑張りすぎたけど、今日はいつもより寝てないし授業中に眠くなったらどうしよう……って、そんな事より今は電車に乗る事の方を優先しないと。
駅の階段を上がって改札口で時刻表を確認する。
「やった!あと少しで次のが来るみたいだし、これなら間に合いそう」
もう急ぐ必要もないから、ホームへの階段も余裕をもって降りられる。その途中にスマホにメッセージが送られてきたのが分かった。
送り主を見ると、毎日一緒に登校している友達から。いつもなら、もう合流してる時間だから心配してるのかもしれない。
『彼方ーまだ来てないみたいだけど、遅刻?』
『ちょっと寝すぎた。でも次の電車で行くから』
『じゃあすぐだね。待ってるね』
【まもなく電車が到着します——】
メッセージのやり取りが終わると、電車の到着を知らせるアナウンスが鳴り響いた。
やって来た電車の中には乗客でぎゅうぎゅう詰めだ。通勤ラッシュの時間帯だし、行き先は新宿だから多いのも仕方ないのかもしれない。
しかもここで降りる人は少ないから、一駅だけでも押しつぶされそう……。
(うぐっ……く、苦しいぃ~)
とりあえずギリギリ乗れはしたけど、人とドアに挟まれちゃってキツイなんてもんじゃない。
「はぁ~。一駅だけでほんとよかった……」
電車の中では息苦しかったし、胸いっぱいに息を吸ってちょっと落ち込んでた気分をリセットする。
もう友達は待ってるだろうから、急いで
「おー、やっと来た」
「やっとって言ってもさ、いつもの時間より数分遅れただけじゃん?」
「いやいや。あたしの気分の問題」
「えーこれくらいは勘弁してよ美咲~」
「彼方。電車来たし、これに乗ってこ」
なんだかスルーされた気もするけれど、この電車を逃したくなかったから急いで乗り込む。反対の電車と違ってこっち側は乗客も少なくて、私たちも座れるくらいには空いていた。
いつもなら美咲と適当に話したりするんだけど、今日は眠くて電車が駅を出てすぐに私は目を閉じた。
【まもなく吉祥寺に到着します——】
「ほら彼方、駅に着いたよ」
「ん~?もう着いたの?全然寝た気がしないよ」
「そりゃそうでしょ。ここまで大体二十分くらいなんだし。それより遅れちゃうから早く行こう」
通学路には私たちと同じ制服を着た沢山の生徒が学校へと向かっている。ここまでくればもう遅れる事は無いし、のんびり歩いても大丈夫。
「それにしても今年は留学生が多いんだね」
「みたいだね。聞いた話なんだけど、留学生は全学年で増えてるんだって。しかもどのクラスにも何人かいるみたい」
「私たちのクラスにも二人いるよね。話したことは無いんだけど、どこから来た人なんだっけ?」
「ええっと……どこからだったかな?あたしも話したこと無いから分かんないや」
「二人とも英語話してたし、アメリカとかヨーロッパの方から来てるんじゃない?」
「そういえば喋ってたね。彼方の予想通りかも」
そんな事を話してるうちに学校に到着したし、教室に入って席に着いたらちょどよく予鈴が鳴って朝礼が始まった。
「はぁ~……よりによって国語の授業で寝ちゃうなんて……」
「彼方ったら注意されてるのに寝ぼけてるんだもん。声出して笑いそうになっちゃったよ」
「やっぱり夜更かしなんてするもんじゃないね……」
「いつまで落ち込んでんのさ。学校も終わったんだし、どっか寄ってかない?」
「そういえば私本屋さんで買おうと思ってた漫画があるんだけど」
「なら本屋に行こうか。どこのに行く?駅前?それとも新宿?」
「時間もあるし、新宿の本屋さんに行こうよ」
「なら早く行こう。結構な時間いる事になるだろうしさ」
美咲の言った通り、新宿の本屋さんには結構長い時間いた。美咲にもやっぱりかって目で私を見てきたけど、仕方ないじゃんって言いたい。
ここは大きいところだから、次々と色んな本を見たりしちゃうし……仕方ないよね?
「いや、思ってたより時間たってるね。もう少しで夜だよ」
「ご、ごめんね」
「いいよ別に。家も近いし、早く帰ろ」
駅のホームは帰宅ラッシュで大勢の人で溢れかえっていた。
「流石にこの時間は人多いね」
「この多さだと、次のを待ってもいいかも」
「じゃあそうしようよ」
二人で待っていると、ふと視線を感じた。なんだか後ろの方から見られているって思ったんだけど、私が後ろを向いても行ったり来たりしてる人が多くて、私にはよく分かんなかった。
もしかしたら私の後ろにゴミでもついてたりするのかもしれない。
「ねえ美咲。私の後ろに何かついてる?」
「……何もついてないけど、どうしたの?何かあった?」
「えっと……誰かに見られてた気がしたからさ」
「それマジ?」
「さっきから後ろの方から見られてる気がするんだけど、気のせいかな」
「私には分かんないな……でも、帰るとき気を付けた方がいいよ」
「うん。気を付けるよ」
「大丈夫かなぁ~……」
美咲は電車に乗っても、そして駅で降りるときにも私の事を心配してた。……大丈夫だって言ったのに、そんなに信用無いのかな。
そういえば電車に乗ってるときは視線を感じなかったんだけど、下高で降りた時にはまた見られてる気がした。多分気にしすぎなんだと思う。
まあ、美咲にも心配されちゃったから、一駅だけど世田谷線に乗っていこうかな。
「ただいまー」
「あら、お帰りなさい。意外と早かったのね」
「そりゃあ、新宿の本屋さんに寄ってただけだし」
家までの道のりでは特に誰かが後をつけてくるなんてことも無かったし、感じた視線は私の気のせいだったのかもしれない。
私以外の三人はもう晩御飯を食べたみたいで、お母さんがテレビで見てるニュースを横目で見ながらご飯を食べていると、ちょっと気になるニュースが聞こえてきた。
『2030年ごろの開業を予定しているリニアモーターカーですが——』
「へー。リニアってあと十年もしないうちに完成するんだ」
「30年開業って本当かしら?なんだか延期するんじゃないかって思うんだけど」
「でも、今だって新幹線あるし、延期したって問題ないでしょ……ごちそうさまでしたー」
「食器は流し台に置いといてね」
「はーい」
食器を置いて部屋に戻るときにも聞こえてきたニュースが、頭の片隅に残るくらいには気になる内容だった。
『暴力団と思われる集団が、ここ一週間に都内で動きが活発になっている事が——』
……これから出かけるときは注意した方がいいかな。
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