侵食される日常
(う~ん……少し眠くなってきちゃった……歴史の授業は眠くなるんだよね)
欠伸が出そうになるのを何とか我慢する。それでも気分はスッキリしないし、授業もなんだかいつもよりも退屈に感じた。
いくら退屈だったとしても、流石に堂々と寝るわけにはいかないから教科書をパラパラと捲って、興味の湧きそうな出来事を探してみる。そうすれば、目が覚めるかもしれない。
しかし、いくら捲ってもボーっとした頭にはこれといって興味の湧く出来事とかが全然なくて、また眠くなるだけだった。
中世、近世、近代まで捲ったところで飛んじゃう寸前まで来ていた私の意識は、現代史のある写真を見た時に眠気が吹っ飛んだ。
その写真は端にあってあんまり重要そうじゃなかったけど、私の目を引いた。
それは隕石が落ちたのか、大きなクレーターの写真だった。それも一つだけじゃなくて、砂漠だったり深い森の中だったり色んな所にクレーターが出来た事があったみたいだ。写真の下に書いてある説明には、1960年代に突然出現した巨大なクレーターと書いてある。
(何だかオカルト特番とかで紹介してそうな出来事が、歴史の教科書に載ってるなんてすごい出来事だったりするのかな?)
教科書を見ながらぼんやりと考えていたら、視線を感じて前を向くと先生と目が合った。なんだか嫌な予感が——。
「じゃあ熱心に教科書を読んでいた空森さんに、この問題を答えてもらおうか」
その予感は見事に的中して、私は今クラス全員の視線を一身に受けている。授業の内容なんて全然聞いてなかったから、この質問が何なのかすら分かってない。
黒板に書いてあることから適当に答えてもいいけど、今から考えてももう遅かった。
立った私は何も答えられず、恥ずかしくて顔を赤くしながら席に着いた。
「来月の中旬に定期テストがあるから、しっかり勉強しておくように」
「もうテストの話が出てくるのか~」
「来月かー勉強しなきゃ」
「ゴールデンウィーク前に聞きたくない話だよ……」
一番最後の授業の終わりに先生が来月のテストの事をいきなり話すから、皆のテンションは一気に落ちた。
私も同じく下がったけど、歴史の授業の事もあってみんなよりも低いんじゃないかと自信を持って言える。
だって歴史の授業の後、美咲とかに揶揄われたからだ。揶揄われた原因は私にあるから仕方がないんだけどね。
「彼方ー。一緒に帰ろ」
「わかったーちょっと待ってて」
みんなが部活に行く中、私は帰る準備をしていた。
私も美咲も部活には特に入ってない。新入生のための部活の紹介とかもあったけど、どれもピンとこなかったってのもある。強制入部とかも無いし、あんまり興味とかやる気とか無いのに無理して入る気もしなかった。
まあ途中から入部してもいいみたいだし、興味が出てきたら入ってみようかな……。
「あーあ。来月テストだって。週末に言わなくたっていいのにさ」
「仕方ないんじゃない?入学して初めての定期テストだし、しっかり勉強して準備してって事なんでしょ」
「勉強めんどくさいなー。……そうだ!明日家に来ない?」
「美咲の家に?別にいいけど……勉強するの?」
「まあ勉強もするけどテストはまだ先だし、流石にずっと勉強はしないよ」
「やっぱりそうだと思ってた」
「じゃあ明日の朝十時くらいに家に来てよ」
「朝十時に美咲の家に行けばいいんだね」
特に明日は予定が無かったから家でゴロゴロしてようかと思ってたんだけど、せっかく誘ってくれたんだし行くことにした。勉強もちょっとはやるみたいだし、二人でやった方が多少は頭に入るかもしれない。多分だけど、ほとんど遊ぶことになりそうなのが、今からでも予想できるんだけどね……。
「彼方。時間は大丈夫なの?今日は美咲ちゃんのお家で勉強するんじゃないの?」
「そうだけど、まだ時間に余裕あるし。そんなに離れてないし大丈夫だって」
「ならいいわ。でも遅れないようにね」
次の日の朝。約束があるのに出かけないで、ソファの上でだらけている私に呆れたように注意するお母さんの目は笑っていないように見えた。
最近の私が遅刻しそうになったりもしたし、今日のお母さんはちょっと厳しめだ。
これ以上だらけてるとなんだか怒られそうだし、家を出る事にした。
まだ少し早いけど、美咲を待たせるよりはいいと思うし。
「う~ん……思ってたより時間があるなー。一駅だけだし歩いて行こ」
駅に着いて時刻表を見ても、全然余裕があった。このまま電車で行くとだいぶ早く着くし、むしろ迷惑だったりするかもしれない。
一駅だけなら十分くらいだし、美咲の家に着くころにはちょうどいい時間になってそう。
(なんか今日は車が路上に多い気がするけど気のせいかな?)
この道はあんまり通らないから普段の様子が分からないんだけど、なんだか道端で止まってる車の数が多い気がした。
ワゴン車って種類の車なのかな?よく宅配の人が使ってるのを見たことがある。
その車が邪魔になって通行がスムーズにできないみたいだ。
(これなら遠回りでも高速の下を通ってった方がいいかも)
そう思って高速道路の下の通りに出てみると、こっちもなんだか変だった。
「あれ……?
なんだか車の数が多いと思ったら、まさか高速道路が通行止めになってるなんて全然知らなかった。下道も車が多くて渋滞してるし、こっちもどっかで工事でもしてたりするのかもしれない。
それにしてもちょっとずつしか進んでいないから、今日車で出かけてる人は大変だろうな。
だからなのか歩道を歩く人や、自転車に乗ってる人とかも少し多い感じがする。買い物帰りで沢山の荷物を前後に積んだ自転車とかもいくつか見たけど……あれは大変そうだった……。
「ふう……ちょっと遅れるかと思ってたけど、時間通りだ。あれ?美咲の家の車が無いや。どこかに出かけてたりしないよね?」
車が無いから誰もいないのかも……なんて考えが頭をよぎりながらもインターホンを押してみる。
『今開けるねー』
元気な声がインターホンから聞こえてくると同時に、ドタドタという振動が響いてくる感じがした。カチャカチャと鍵を開ける音がしてすぐにドアが勢いよく開けられ、中からは美咲が顔をのぞかせていた。
「時間通りだね。まあ入ってよ」
「お邪魔しまーす」
「先にあたしの部屋に行ってて」
そう言って美咲はリビングの方へ行った。私は言われた通り美咲の部屋に行くために階段を上がってすぐの部屋に入る。
部屋に置かれたテーブルには美咲の勉強道具が準備されていた。一応、やる気はあるみたいだ。そしてテレビの前にはゲーム機とそのソフトが置いてあるけど……こっちもやる気十分みたい。
何だか勉強よりも気合が入ってるようにも見えるんだけど……。
「おまたせ。ジュース持ってきたよ」
「ありがとー。別に水とかでもよかったのに」
「いいっていいって!これスーパーで売ってるやつなんだし」
「じゃあ……いただきます!」
テーブルの上に置かれたコップを手に取って口をつける。歩いてきたから少しのどが渇いてたから、一気に半分くらい飲んじゃった。
それを見た美咲は驚いた顔をしていた。
「そんなにのど渇いてたの?」
「いや~今日は歩いてきたからさ。何も飲んでなくって」
「え!?わざわざ歩いてきたの?」
「うん。時間があったから——ってどこ行くのさ……」
隠すことでもないしと思って歩いてきたと正直に話したら、美咲は部屋を飛び出して下に行った。——と思ったら、ジュースを持ってすぐに戻って来た。
そして何も言わずに私のコップに注ごうとしているのを慌てて止める。
「いや、もう十分だって!」
「そう?ここに置いとくから、好きに飲んでね」
「……う、うん。ありがと」
勉強を始める前から色々あったけど、何とか始める事ができた。
……まあ、あんまり長い時間は持たなかったんだけどさ。
「彼方~わかんないとこ教えて~」
「いいけど、どれ?」
「これこれ。この問題なんだけどさ」
「ああ、これはね——」
美咲が分からない所を教えてあげたり。
「ねーねー。ここ分かる?」
「この問題って結構難しいんだよね。解き方は——」
私が分からなかったら教えてもらったりできるんだけど……。
流石に二人とも分からないと、二人であーでもないこーでもないと頭を悩ませることになって、何とか解けたとしても頭をフルに使ったからなのか美咲は後ろに倒れて、私はテーブルに突っ伏して頭を休める。
「お腹減ったと思ったら、もうお昼じゃん」
「それなら何か買いにコンビニにでも行こうよ」
「コンビニなら歩いてすぐだし行こうか」
美咲の家からコンビニまでは歩いて数分の所にあるから、遊びに来たときとか結構寄ったりしてる。
私はサンドイッチとプリンを買ったけど、美咲は結構食べるつもりなのかスパゲッティーにおにぎり、あとレジでから揚げも買ってた。
「結構買うんだね。全部食べたら眠くなりそうだけど、大丈夫?」
「寝ちゃっても大丈夫でしょ!午前中にだって結構できたしさ」
「いや……寝ちゃうの?まあ確かに午前中で進んだから……いいのかな?」
午後どうするのかはひとまず置いといて、帰る途中で美咲が不思議そうにこう言った。
「なんだかバンが多いけど全部宅配業者だったりするの?」
「どうなんだろ?でも、私が歩いてきたときもよく見たなぁー」
「どっかでセールでもやってたのかな?」
「あったとしても多い気がするけどね……」
帰る途中で見ただけなんだけど、どうやら配達じゃなくて何かを回収してるみたいだった。でも見たのは運び終わったところくらいで、何を運んでいたのかまでは分からない。……けど、ドアを閉めるときに見えたのは中を隠す黒い布だけだった。
「——あれ絶対見ちゃいけない奴だよね……」
「ん?何か言った?」
「ううん。何でもないよ」
お昼ご飯を食べた後も勉強を再開したんだけど……まあ長続きはしなかった。
「流石に目が疲れてきたよー……ってもうこんな時間だ。もうそろそろ帰ろうかな」
「そりゃあ休みなしでやってたら目も疲れるでしょ。駅まで送ってこうか?」
「すぐ近くだし大丈夫だよ。じゃあねー!」
帰ろうと思ってた時間よりも少し遅くなっちゃったけど、日も傾いてきたとはいってもまだ明るいし、急げば怒られる事は無いはずだ。
「あれ?お財布美咲の家に忘れてきたかも……とりあえず連絡しなきゃ!」
『どうしたの?何か忘れた?』
「そうみたいでさ、美咲の部屋にお財布忘れてない?」
『財布?ちょっと待ってて……あ!あったあった。今から届けに行くから駅の改札で待っててよ』
「改札ね。分かった」
電話が切れた後、十分以上待っても美咲が来ることは無かった……。
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