危険度:レベル8 毛玉と肉塊

「はぁ~あ……こんだけいるなら面白い奴がいると思ったんだけどなぁ……こりゃぁ期待外れだな」


光源を失った地下で積みあがった建物の残骸の上が不自然に、そして仄かに輝く白い光。その中心で、ため息を吐きながら呆れたようにつぶやく者がいた。その周囲にはついさっきまで生きていたモノがあちこちに転がっている。


「暇つぶしもここまでにして、そろそろあいつを殺しに行くかぁ?あの様子じゃあ再起動に失敗してるだろうしな……。おっと、そういえばやりすぎて出口無いんだった。まぁ……どっかに穴開ければいいか」


そう言い終わった瞬間に爆発が起こり大きな穴が開いた。そこから入り込む太陽の光が中の惨状を明らかにする。

瓦礫の山が連なり、その下には無数の生命体だったと思われるモノが転がり、どこからかあふれてくる水がそれらの体液と混ざって川となり地下へと流れ込んでいる。


これを引き起こした人物は足元も気にせず、先ほど開けた穴へと進んでいく。この惨劇の原因である者は、外に出るまで顔色も表情も一切変わることが無かった。




発掘された物お兄さんとの話から二日がたった。その間に襲撃される事とかは特に無かったけど研究所は日本ここのを残して全部無くなっちゃったみたいだ。

……もう残ったのはここだけだし、犯人がいつ来てもおかしくない。

お兄さんの言った事が本当なら、私たちでは絶対に倒せないし、いつ来てもいいようにお兄さんがいる部屋への道を覚えておかないと……。


ここに来るのは久しぶりってわけじゃない。今のところお兄さんと話してからは毎日来てるんだ。危機が迫ってるって言うのもあって、所長さんからもできるだけ来てお兄さんと話すように言われてる。


「最近見て面白かった映画は——」

(へぇ、映画か……君の見たものも面白そうだ)

私が見た映画の話をしたり……。


「寮で研究員のお姉さんからゲームを借りたんだけど、それがすごく難しくて——」

(ゲームも充実してるんだね。機会があれば買ってもいいな)

最近遊んだゲームの話をしたり……。


「今日は学校で友達とこんな話を——」

(なるほど……最近の子君たちの中ではそういったものが流行っているんだね)

学校で友達と話したことだったり……。


……多分所長さんたちが聞いてほしい事とかは聞けてないとは思うんだけど、これで大丈夫なんだよね……?

これを見てた所長さんたちからも特に注意されないのは、目的は別な事なのかな。


そういえば、お兄さんと会い始めてから私の超能力がなんだか急成長をしてるみたい。

普通にしててもみんなの心で考えてる事が分かる感じがして、私はそれが嫌できっかけのお兄さんに相談したら——。


(聞こえるのが嫌だったら、聞かなければいいんだよ。例えば耳をふさぐ事をイメージしたりすればいいんじゃないかな)


そのアドバイスで今は聞こえなくなった……と言うか、切り替える事が出来るようになったって言った方がいいか。

まあ、お兄さんと関わり始めてから私も忙しくなった気がする。別に悪い事じゃないんだけど友達と遊ぶ時間が減っちゃうのは少し嫌だな……。




今日も研究所から呼ばれてて来てみると、研究室までの通路でおじさんが私の事を待ってるみたいだった。


「あれ?おじさんだ。こんなとこで何やってるの?」

「やあ。今日は研究所こっちじゃなくて、皆と外に行ってもらいたいんだ」

「外に?私が行くの?」

「そうだよ。急成長した君の能力ちからを借りたいんだ。……あまり時間が無いから移動しながら説明するよ」


おじさんについて行くと、向かってるのは駐車場がある所みたいだ。私たちと同じく駐車場へ向かってる人が居るけど、同じ所に行く人なのかな?


「それで……私はどこに行って、何をするの?」

「君は今日、東京にある高尾山へ行くことになる。そこに変異生命体がいるんだけど君の能力を使って、その変異生命体と話ができるか試してほしいんだ」

「変異生命体と話さなくちゃいけないの?……それ絶対危ないよね?」

「確かに危ないのは間違いない。でも距離を取れば問題ない事が分かってるし、今回は優秀なボディーガードが守ってくれるから、安心していいよ」


安心していいよって言われても、どんな人が来るか知らないからちょっと不安だ。優秀だって言ってたし、もしかしたらセブンとかが来てくれるんだったら安心かも。

駐車場で待っていたのは、十数人の研究員の人たちと三台の大きな車。

その中に見知った人が一人いた。あの人は確か研究員のお姉さんで、間中團まなかまどかって名前だったと思う。

なんだか雰囲気が違うような気がするのは気のせいかな?でも知らない人だけだったらずっと緊張してたかもしれないし知ってる人が居てよかった……。


「こんにちは。お姉さんも一緒に行くんですね」

「ん?や~君が新入りの茜ちゃんかー。まどかから聞いてたけど……うんうん、聞いてたよりもいい子そうだねー」


話しかけた時に團さんと姉妹みたいにそっくりな超能力者の事を思い出した。

間違いなくこの人が前会えなかった間中最中まなかもなかさんだ。


「あの、今日はよろしくお願いします」

「よろしくーってもうそろそろ出発の時間かー……私たちも早く乗ろう。さーさ、こっちこっち」

「えっと……じゃあ行ってきます」

「まあ大丈夫だと思うけど、気を付けてね」


最中さんに手を引かれて大きな車へと乗りこんだ。中にはまだ誰も乗っていなかったから、私たち二人は一番後ろの席に座った。

顔を知ってるだけで話もしたことないから隣同士に座るのは結構緊張する。しかもここから東京まで行くんだから、喋らないと気まずい感じになるかも。

まあ、最中さんなら気にしなさそうだけど……。


私たちが席に座ってからは他の人たちも準備が終わったのか、次々と乗ってきてすぐに出発した。


「ここから目的地までは一時間半くらいらしいねー。そういえば今日はあっちで何するか聞いてる?」

「なんか変異生命体がいるって聞いてます」

「なんだよ~全然説明してないじゃんか……。えーっとね、今日茜ちゃんが相手するのは見た目はかわいい感じの小っちゃい動物なんだけど……それがね、とんでもなく危ないみたいで茜ちゃん大変だと思うよー」

「えっ……私そんなのを相手にするんですか……?」


外に出て変異生命体を相手する事が多い人から危険なんて言われると、すごく不安になると言うか……生きて帰れるのかといった心配が頭から離れなくなった。


「あはは。そんなに心配しなくてだいじょーぶだって。距離を取れば安全らしいし、あたしもいるし問題ないよ」

「あ、ありがとうございます。頼りにしてます」

「もーそんな硬くなんないでいいって。言葉遣いもいつもの感じでいいのに。……なんだか眠くなってきちゃったからちょっと寝るね。おやすみー」


喋るだけ喋って寝ちゃった……。最近は忙しかったから、なんだかこっちまで眠くなってきちゃったな。東京まではまだまだ先だろうし寝ちゃっても大丈夫だよね……。




「おーい、茜ちゃん着いたよー起きて起きて」

「う~ん……もう着いたんですか?」

「そうだよー。早く現場に行こう」


最中さんに手を引かれて車を出ると周りを見る余裕もなく、どんどん森の中を進んでいく。

危険だって聞いてたのに特に問題は無さそうに思えたのは、森に入ってからすぐの所だけで進んでいくと沢山の木が折れてるのが分かった。

ここに来る前、小さい動物って言ってたような気がするけど……どう見ても小さい動物がやったようには見えない。これ……とんでもない奴を相手にしなくちゃいけないんじゃないの……?


「それで今どんな感じー?」

「現在、対象は前方約三十メートルの所だ」

「どれどれ……あれかなー?結構小さいね。攻撃範囲とかは分かってる?」

「対象の攻撃範囲は広く、最大範囲は測定できてない。現時点では十メートル程度が危険域となっている」

「あんな小っちゃいのにこれだけの破壊力があるって事は——」

「ある程度予想出来てるとは思うが、攻撃方法はエネルギーの放出によるものだ」

「なるほどねー……まぁ何とかなるでしょ」


最中さんは戦闘部隊の人と話してるのが少しだけ聞こえてくる。やっぱりすごい奴がこの先にいるって事以外は分かんない。

周りでは怪我してる人もいるし、なんだか壊れたロボットみたいなのが落ちてたりもするし、近づくだけでも危険な気が……。


「さーさー茜ちゃん、出番だよ。早く行って解決しちゃおう」

「えっ?いや、あの……ちょっと心の準備を……」

「そんなに心配しなくても大丈夫、大丈夫。何かあってもあたしが守るし、問題ないって。ほら見えてきたよー」


私はまだ行く気は無かったのに、後ろから最中さんに押されて行くことに。そしてその先に明るい茶色をした毛玉が見えた。


「……もしかして、あの毛玉みたいなのが今回の目的の生き物なんですか?」

「そうだよー。あそこに見えるのが今回の目的なんだ。じゃあ、茜ちゃんよろしくね」


あの小さい毛玉が、周りをめちゃくちゃにするほどの能力を持ってるなんて、全然考えられない。

話しかけたら答えてくれるかな?一応、守ってくれるって言ってたけど、ちょっと不安だな……。


「お、おーい……聞こえてる?」

(ん?なんだお前。あいつらの仲間か?)


とりあえず話しかけてみると、まさか返事があるなんて思ってなかった。すぐに攻撃するほど凶暴じゃないみたいで安心した。


「仲間って……後ろの人たちの事?その人たちなら仲間だよ」

(あいつらの仲間なのか。攻撃はしてこないからいいけど、なんか怪しいな)

「怪しいって言われても、私たちの所に来ないって誘いに来ただけだよ」


難しい事は私にはできないから、嘘を言うより正直に言っちゃったほうがいいよね。


(——あれ?お前から光の匂いがするぞ!大好きなんだその匂い)

「え?私からそんな匂いがするの?光って……太陽の事?」

(違う違う。光と太陽は別だ)


いや、私から光の匂いがするって言われても、太陽の以外に思いつかないけど違うみたい。……っていうか、太陽じゃない光ってなんだろ?思いつくものは——あった。最近よく会いに行くお兄さんが白く光ったって聞いたし、それしかない。


(いい匂いのするお前にならついてってもいいぞ)

「ほんと?なら一緒に来てほしいな。きっと仲良く出来ると——」

(来たぞ!あいつだ!!)


今まで毛玉に全く動きが無かったのに、いきなりもぞもぞと動き始めた。それもなんだか焦った感じで。


「何があったの?」

「茜ちゃんあれだよ。多分あそこにいる奴だ」


今までにないくらい真面目に最中さんが言った先を見てみると、一匹の猿が離れた場所の木の上に居た。でも何かが変だった。


「あれって、猿……でいいのかな?」

「いやー見た目は猿だけど違うと思うよ」

(そいつの言う通り、あいつは敵だ!)


その場からじっと動かない猿をよく見ると、普通の猿とは違って体の半分に毛が無くて皮膚……ってよりも肉が見えてた。すごい不気味で気持ち悪い見た目をしてる。


「あれ?いなくなっちゃった」


瞬きをしたとき木の上に居た猿が一瞬で居なくなった。

私は見失ったのに、二人はどこに行ったのか分かってるみたいだった。


「茜ちゃん、上だよ!」

(おかしい能力ちからが出せない……!)

「それってエネルギー切れじゃ——ってもう来るよ!」


私が猿を見つけたのは凄いスピードで突っ込んで来てる所で、もう間に合わないって事だけは分かった。


「そんな顔をしなくても、大丈夫だーよッと」


そんな中最中さんだけが動いて、猿が黒い何かにはじかれたのが私には見えた。

見てすぐは分からなかったけど、最中さんが影を使ったってすぐに分かった。


そしてはじかれた猿の体がぐちゃぐちゃと動いて、別の姿に変わっていく……。

大きな肉の塊になって、そこから人の姿になっていった。

——そういえば、この辺で何人も行方不明になってるってニュースを聞いた。もしかしてあいつが襲った人の姿だったりするのかな……?


「うぇ~なんだあの姿、気持ち悪いなー」

「最中さん、あれ倒せる?仲間の人たちに手伝いとかはいる?」

「ちょっと速いけど、あれくらいならあたしだけでも問題ないよッ!」


人の姿になってからも同じように突っ込んできた。でも、その速さはさっきとは比べられないくらいに速い。それなのに問題なくはじいた後、影をロープみたいにして手足を捕まえて振り回してる。

肉の塊あいつは必死に取ろうとしてるけど、上手くいかないみたいだ。


「そんなんじゃほどけないよ。おーっと危ない危ない……結構動くなぁ君は」


取れないと分かると、今度は最中さんを狙って飛びかかってきたけど、ロープがしっかり巻き付いてるから直前で動きが止まった。

それでも目の前まで来てるのに、何だか緊張感のない……と言うか余裕のある声をしてる。


「いやー……丈夫な体してるね」


さっきから地面にたたきつけても、木が折れるくらいの力でぶつけても、全く効果が無いように見える。


「ここから賢くなられても困るし、ちゃっちゃと終わらせよ……」


ギチギチとロープを締め上げて、あいつは身動きが取れなくなっていく。

そこにゆっくりと最中さんは近づいて目の前で止まると、一瞬で三つの塊にに斬られていた。

速さに目が慣れたと思ってたのに、何をしたのか私には全然見えなかった。


「……もう大丈夫そうだね。じゃあ後始末よろしくー。茜ちゃんその子連れて車に戻ろっか」

「あっはい。分かりました」


腕の中にいる毛玉の様子を見ると眠ってるみたいだったから、静かに車に戻った。




そして後片付けが終わってからの帰り道で——


「最中さん、今日はありがとうございました」

「いいよーお礼なんて。茜ちゃんを守るために来たんだし……って言うかいつまで最中さん呼びなのー?言葉遣いも普段通りでいいって言ったのに」


何かを期待するような目で見てくる最中さん。何を期待してるのかは私でも分かる。


「えっと……最中ちゃん、今日は助けてくれてありがと」

「はーい。どういたしまして」


帰り道で最中ちゃんと話そうと思ってたら、私も疲れてて二人とも研究所に着くまでずっと眠ってた。毛玉はずっと抱きしめたまま——

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