危険度:レベル7 防護服の巨人

「先生ーここでの発掘はいつまで続けるんですかー?」

「いつまでって……遺跡を掘り当てるまでかな」

「今回はここらへんで切り上げません?結構発掘出来ましたし、これ以上続けるなら人手が足りないですよ。まだ続けるつもりなら、もっと数増やしましょうよ」


彼らが遺跡の発掘を開始して約一ヶ月。教授とその研究室のメンバー合わせて十人にも満たない人数で発掘を行い、既にいくつかの遺物を発見していた。


この一ヶ月、ほぼ毎日彼らは発掘作業を続けていたため疲労も溜まっていたので、作業を終了して引き上げるべきだと考えていた。遺跡の発見はできなかったものの、土器の破片をいくつも発見できている。


「まあ、今回は土器これだけでも十分か。じゃああと少しだけやって、明日帰るとしよう」

「ホントですか!?さっさと終わらせて帰りましょ!」


教授の事だから発掘許可ギリギリまでやるかと誰もが思っていたが、まさかの今日で終了宣言が出された事にみんなやる気を出していた。


「……あれ?何か光ってるような——」


そして日が傾いてきた頃、誰かが小さく呟いてすぐ発掘現場そこを中心に周囲が真昼のように明るい光に包まれた。




「……なんだか人が多いような気がするけど……また何かあったのかな?」


前に来たときはみんな慌ててたから、三日ぶりに研究所ここに来たのにまだ忙しそうな雰囲気だ。

前回は赤い警告文が書かれていたモニターも今は特に問題は無いみたいで、ニュース番組や世界の地図が表示されている。


メインホールのベンチに座って周りを見ていると、知らない人が大勢いた。中には変な服を着た大きい人もいるけど、あんなに目立つ人は見たことが無かった。


「最初に破壊されたのはアメリカの研究所なんだって?」

「そうみたいだな。そして次は南米の研究所があっさり壊滅だとさ」

「まだ犯人の正体すら分かってないんだろ?ここも狙われてたりして……」


近くにいた人たちの話を聞いてみても、私に分かったのはまた研究所が壊されたって事くらいだ。

しかも研究所を二つも壊してるって事は、犯人はきっとこれからも研究所を壊すんだと思う。もしかしたら、いつか壊しに来るのかも……と考え始めたら悪い事が沢山思い浮かんでくる。


「あれ?……あそこで話してるのって——」


あの大きな人がおじさんと話してるのが見えた。

さっきからずっと気になってたから、行ってみようかな。遠くから見てるとなんだか楽しそうに話してるような感じもしてるし、悪い人じゃないだろうし。

とりあえず、どんな人なのか見てみたい。


「こんにちはー、おじさん」

「やあ。三日ぶり……くらいかな?今日はどうしたんだい?」

「前来た時は忙しそうだったから、どうなったのかなって気になったのと、その人は誰なのか知りたくて」


近くに来てみて分かったのは、想像以上に大きい。見上げなきゃ顔が見えない……と言うか着てる服がやっぱり変な感じ。

この服……最近どこかで似たものを見たような気がしてた。

そして私はすぐに思い出すことができた。

映画だ——この前見た映画で似てる服を主人公が着てたはず。確か名前は……防護服って言ったような……。


「流石に目立つから、やっぱり気になるよね。彼はセブンって呼ばれてるんだ」

「へえーセブンって言うんだ……ってセブンは数字の七でしょ?なんで数字が名前なのさ」

「それはセブンがレベル7の中で唯一、研究所内を自由に行き来できるからなんだ」

「いや……それで名前がセブンって適当な気も……」


おじさんと話してると横から手が割り込むように私の前に出てきた。始めは何なのか分からなかったけど、すぐに握手かなと思って手を握ると握手であってたみたい。

でも、握った手の感覚……変な感触がする。なんだが風船を握っているような感じ。


「セブンの手ちょっと変な感じがするでしょ?」

「何で分かったの?私、変な顔してたかな」

「はははっ。流石に手をじっと見てたらわかるさ」

「だって手が風船みたいなんだもん」


風船みたいって言わなければよかったと、言い終わってから気付いた。セブンを見るのが怖かったけど、ゆっくりと顔を上げて見ても怒っては無さそうだった。

そもそも顔が全部隠れてるから、怒ってるかどうかなんてわかるわけが無い。


「……セブン喋らないんだけど……怒ってたりしてない?」

「セブンはそんな事で怒ったりはしないよ。だって本当なんだから」

「本当ってなにが本当なのさ……」

「そりゃあ、中身が無いってことだよ」


ちょっと意味が分からない。

じゃあ私の目の前で動いている、この防護服を着たのは一体何なんだ。


「いや……おじさん。中身が無いのに動いてるんだけど」

「怖がらなくてもいいよ。セブンは人間じゃなくてね——ガス状生命体なんだ」

「ガス状……って言われても、何なのか全く分かんないよ」

「そうだなー。簡単に言ったら煙みたいなものでいいのかな?……うん、それでいいみたいだ」


おじさんがセブンに聞くと、セブンは親指を立てて返事をしている。体が煙みたいって事は、話すことができないのかもしれない。だから身振り手振りで返事をしてるんだ。


「そういえば、セブンはこんなに目立つ大きさなのに、私がここに来てから一度も見たことが無いんだよね。他の所にいたの?」

「セブンは戦闘部隊の所属だから、結構外に出てる事が多くてね。他国の研究所が破壊されたから警戒のために帰ってきてもらったんだ」

「だから今日は人が多かったんだね」


「もうこんな時間じゃないか。セブン、戦闘部隊と研究員の集まりがあったはずだから、そろそろ行った方がいいよ」


チラリと壁の時計を見ると慌ててエレベーターホールへと向かって行った。


「いい人そうだね」

「見た目は結構クセがあるけどね。……そういえばセブンって大きかったでしょ?でも普段はあんなに大きくは無いんだ」

「え?じゃあセブンは自分で身長を大きくしたり、小さくしたりできるって事?」

「うん、そうだよ。セブンは大きくなるとパワーアップするんだ」


煙みたいな体のはずなのに、大きくなると強くなるって一体どういう事なんだろう。


「しまった、話過ぎちゃったな……。もう行くけど、しばらくは忙しいと思うから寮で過ごす方がいいかもしれないよ」


そう言うと急ぎ足で行ってしまった。

さっきまではここに人が大勢いたのに、いつの間にか居なくなり静まり返っている。おじさんの言う通り、しばらくの間はここの人たちはみんな忙しいのかもしれないから、おとなしく寮にいようかな……。

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