第5話 医者として

そして、私達も能力について説明していく。


「連携の形が見えてきたな」


「そうだね!あと……可香谷さんには、刀が一番合うね。ごめん紫雲君、刀を渡してもいいかな?」


「おう、構わねえよ」


「刀……ですか?」


「うん!可香谷さん、家に日本刀とか無かった?」


「そういえば、あったような……」


「じゃあ、それを取りに行こう。それまではこの刀を使ってて」


水無瀬君は、可香谷さんに刀を渡す。


彼の言う通り刀を扱うのが上手そうだ。


「皆さんに貢献できるよう、鍛錬していきます」


「うん!」


「そろそろ出発するか?」


私達は、再び歩き出した。


***

校舎を出てから少し経ち、住宅街に入った。


何処を見ても赤く染まっていて、見るに堪えない光景だ。


「……あ、見てください。人が倒れています!」


指さされた方を見ると、確かに倒れている人の姿が見えた。

……鼓動は微かに聞こえる。


「大丈夫ですか……!?」


急いで駆け寄るが、応答はない。


「これは酷い……。腹が裂かれてる」


「首元に噛み跡があるね……。まるでゾンビみたい!」


「確かに、普通の人は噛んだりしないよね……?」


「ああ。だが水無瀬みたいな奴なら……有り得そう」


「何で僕なの!?……まぁ、同じ部類なのだろうけどさ」


否定はしないんだね……。


水無瀬君が私達の敵じゃなくて、本当に良かったと思う。


「早く手当てをしなくては。医療キットも持ち合わせていませんし……探すしかなさそうです」


「そうだね。病院とかならありそうじゃない?」


「病院じゃなかったら……ドラッグストアか薬局。あの廃ビルは遠いし、間に合わないだろうな」


「じゃあ、先に病院を探そう!さっきそれっぽいの見つけたからさ!」


来た道を戻り、病院を探す。


……だが、中々見つからない。


「ここだと思ったんだけどな……」


「水無瀬さんが言っていたのは、此処じゃないですか?」


「お、本当だ。ありがとう!」


「一応人がいるかもしれないし、慎重に進もう」


鼓動の音が多い。

きっと人がいるのだろう。


……敵にならないといいけどな。


「お邪魔しまーす……」


ドアを開けると、整頓された棚が目に入った。

薬の瓶が沢山ある。


私はよく分からないけれど、メスのような物もあった。


「僕、さっきの人を運んでくるよ!」


「一人で大丈夫か?」


「あ~……傷が開いちゃうか。なら、紫雲君も来てくれる?」


「私も行きます。こう見えて、意外と力持ちなんですよ!」


「ありがとう!じゃ、お願いね!」


「私は行かなくていい?」


「静間は治療に使えそうなものを探しといてくれ」


「分かった。気を付けてね!」


「「了解」」


三人を見送り、探索を始める。


何か役に立つものはないかな。

包帯やガーゼ……消毒液や、絆創膏。


他にも色々と揃っている。


でも……裂けてしまった腹、噛まれた首元の手当てはどうすればいいのか……?

私達に、出来るのだろうか?


「……おい、人の病院で何やってんだ」


「えっ……」


後ろを振り向くと、白衣を着た男性が立っていた。

無意識に後ろへ下がってしまう。


「す、すみませんっ……!手当てできるものが無いかと探していまして……」


「チッ、勝手に入ってくんなよ……」


男性は呆れた表情でこちらを見る。


敵では……無い?

殺意も感じないし……。


「怪我人を手当てしたらすぐ出ていくので……」


「……お前、医者なのか?」


「いえ、違います。ですが……見殺しにすることも出来ないので、手を尽くすつもりです」


「今時他人を助ける奴がいたとはな。さっきの奴らは仲間なんだろ?」


「はい。少しずつ協力して……この世界を元に戻したいんです」


「……そうか」


沈黙が流れる。

男は壁に寄りかかり、こちらを見つめていた。


「あの……貴方はここで何を?」


「見ての通り、医師だ」


「……!それなら、一緒に手伝ってくれませんか?私達だけじゃ、手に負えないかもしれなくて……」


「………却下」


「えっ!?な、何でですか……?」


予想外の答えに驚いてしまう。

医者なら助けてくれると思ったけど……。


まあ、そうだよね。

殺し合うこの世界で、他人の為に動くなんて事……するはずないもんね。


「俺は死にかけている奴を、地獄へ引き戻したくないからな」


「!……優しいん、ですね」


「馬鹿か。俺が優しかったら、もっと救えてんだよ……」


そういった男性の表情は、悲しそうだった。

何かあったのだろうか……?


「そんなことありませんよ!だって、ある意味地獄から救おうとしてしてるじゃないですか」


「……変な女だな」


「あはは……。変ですかね?」


「変だな。俺も、お前も」


「……あ、私は静間彩音です。名前を聞いてもいいですか?」


「皇紅(すめらぎ こう)だ」


「皇紅さん……。素敵なお名前ですね!」


「……そいつはどーも」


皇さんと話しながら、棚にあった包帯などを拝借した。

これで何とかなるといいけど……。


「で、それで何とか出来んの?」


「やってみないと分かりません。でも、何もしないよりはマシだと思うので」


「……ふーん。お前、何歳?」


「16の高2です。どうかしましたか?」


「若いのに度胸あんじゃん。ま、頑張ってみろよ」


「はい!」


そう言って、彼は私の頭を撫でた。


……何故だろう?

それに、安心感がある。


「お前、俺の妹に似てるわ」


「私が!?皇さんの妹さん、今は何処へ?」


「……あの日から、帰ってないんだ」


「す、すみませんっ!辛いですよね……」


「俺は生きていると信じている。この近くにいるかもしれないしな(笑)」


皇さんは微笑む。


寂しげで、儚くて……。

吸い込まれそうだった。


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