第3話 水無瀬瞬


「君達の目的によっては、敵になるかもね」


「……そう。私達の目的は、この世界を元に戻すこと。むやみに人を殺したりはしないよ」


「そっか!僕を殺すとか言われたらどうしようかと思って……でも、大丈夫みたいだね。僕、協力するよ」


「本当!?」


「それは心強い」


「でしょでしょ!あ、そうそう!僕の力は……」


「ちょっと待って!!私から言うよ。私は聴覚」


「……俺は視覚」


「おおっ!凄いね!僕……実は感覚じゃないかもなんだ」


「どうゆうこと?」


「感覚で言ったら触覚が一番近いけれど……僕は、身体能力が強化されたんだ」


身体能力……!?


五感ではない能力……か。

解明しなければいけない、新たな謎が増えた。


「僕もよく分からないんだけど……ごく稀にあるみたいなんだ。ま、触覚の内に入るって言われても不思議ではない」


「なるほどな。水無瀬は戦闘能力に欠けているって事か」


「あははっ!その通りだよ、紫雲君。足手まといにならないよう頑張るよ!」


「助かる」


こうして、私達は三人になった。


「ところで、今日はどうするの?」


「そうだな……家にも帰れねぇけど、ここに野宿するのもな……」


「じゃあ、別の場所を探そう。作戦会議する時にも使える、秘密基地をね」


「すぐには見つかるかどうか……」


「力を使えば、案外見つかるかもよ?」


「そうか……その手があったな。よし、早速行こうぜ」


「うん!!」



***

「此処、良さそうだな」


私達は、廃ビルの中にいた。


「静間、その……着替えや風呂、今のままじゃ不便だよな?」


「まあ……ね。でも、贅沢は出来ないし!」


生死に関わるこの状況。

とでもだけれど、贅沢する気にはなれない。


「それがそうでもないんだなぁ~」


水無瀬君は、背負っていたリュックから何かを取り出す。


「じゃーん!某ショッピングセンターのマスターキー!」


「すげぇ……!よくそんなもん持ってたな」


「たまたま拾ったんだよ。それにしても、静間さんの服、血だらけでしょ」


「本当だ。多分……静間が思っている以上に血だらけだぞ?」


目が見える紫雲が言うのだから、血がついているのだろう。


「……これがあれば、新しい服に着替えられるな」


「うん!ありがとう!」


「あははっ!やっぱり静間さんは可愛いね!」


「か、かわっ!?」


これだから水無瀬君は……!

私、可愛くないし!

簡単に言わないでよ……!


「な、何言ってんだよ!?水無瀬、もしかして……」


「もたもたしてたら、取られちゃうかもよ?」


「くそ……!」


「ほらほら、早く着替えなよ!」


ショッピングモールに入り、服を持っていく。

こんな状況だけど、おしゃれも楽しみたいのだ。


「……紫雲」


「な、なんだよ?」


「別に取って食べたりはしないよ?だから安心しなって」


「そういう意味じゃねーんだよ……!もういい。お前らはそこで待ってろ」


紫雲は奥に入っていった。

……何か悪い事したかな?


「静間さん」


「ん?」


「紫雲君のこと、好きなの?」


「えええええええええええっ!?べ、別に!ただの友達だし……」


いや、本当にただの友達だしっ!?

何もないよ!

そう、何も……。


「ふぅ~ん?それなら良いけど」


「お待たせ」


「わっ!?紫雲!?」


後ろを振り向くと、紫雲がいた。


「水無瀬……俺がいない間に変なこと聞くんじゃねーぞ!」


「はいは~い」


「……ったく」


「……?」


「あ、そうだ!静間さんにプレゼントがあるんだよね!」


「え?」


水無瀬君はまたリュックに手を入れ、中を探る。


「あった!はい、どうぞ!」


渡されたものは……


「これ……ヘアゴム?」


「髪邪魔そうにしてたでしょ?それあげるよ」


「ありがと!」


髪が邪魔だったから本当に助かる。

耳が隠れちゃうからね。


「二人共。協力者をもっと増やせると思う?」


世界を元に戻す為には、もう少し協力者が欲しい。

数が多ければ、それ程有利になれる。


「どうだろうな。俺達みたいに協力してくれる奴がいれば良いんだけど」


「確かにね……」


この世界で、私達に協力してくれる人なんて……いるのだろうか。


「だったらさ、明日学校に行ってみようよ」


「……学校は危険だ。もし、誰かに襲われたら……」


「大丈夫だって。僕もいるんだし、何かあっても僕が守るよ!」


「……分かった。行ってみよう」


「ああ」


そんな会話をしていると、ビルの外から声が聞こえた。


「……人、いるから気を引き締めて」


「「了解」」


息を潜めていると、その人達はビルの中に入ってきた。


「いやぁ~堂々と人を殺せる世界になって嬉しいよ!」


「そうだな!全く、最高の世界になったもんだよ」


会話からして、その人達は人を殺している。

それもかなり、手慣れていそうだ。


「……二人とも、僕に眼と耳を貸して」


水無瀬君はそう言い、立ち上がった。


「おい!水無瀬っ……」


「ぁあ?まさかのこんな場所で獲物発見!ラッキー!」


「女子もいんじゃん。そいつはまだ殺さなくていいぜ?」


私達に気付くなり、こちらに向かってくる三人。


「こっち来るよ……!」


「分かってる。静間さん、聴覚よろしくね」


「うん……!!」


私は目を瞑る。

視覚・聴覚・嗅覚・触覚を失った今、頼れるのは聴覚のみ。


「北・北東・北西の位置に一人ずつ。それと……北から電動ノコギリの音がする」


「まずいな……北東にいる奴はナイフを二本、北西にいる奴は刀を持ってる」


「了解」


こっちはナイフしかない。

圧倒的不利なはずなのに……水無瀬君は動揺するどころか、まるで楽しんでいるよう。


ナイフを片手に、その人物達の方へ歩く。


「な、なんだぁ?お前……?」


「俺は水無瀬瞬。そこのお嬢さんの彼氏だよ」


「か、かかか、かっ!?」


か、かかれぇ!? 私達は付き合ってなんかないよ!!

ほんっと水無瀬君は……からかうのが好きなんだから……//


「はっはっはっ!面白い冗談言うじゃねぇか!てめぇ、俺達が誰なのか分かんのか?」


「うん、知ってるよ。電ノコに二本のナイフ、刀を持ってる3人組って言ったら、その手の”業界”で有名じゃん」


「ほう……?お前も同業者か。ま、今はどうでもいい。女をよこせ」


「それは無理だね。僕は君達をここで始末しなくちゃいけない」


「はっはっはっ!調子乗ってんじゃねえぞガキィ!やれ、野郎ども!!」


一斉に襲いかかってくる三人。

私達がサポートしなければ、勝つことは出来ない。


「静間さん、紫雲君!位置を教えてくれるだけでいいから!」


指示通り、敵の位置を伝える。


「水無瀬君!右斜め前!そこから左斜め後ろに回り込んで!」


「りょーかいっ!……覚悟しろよ?」


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