第4話見てな!若い衆

土曜日の夕方5時に喫茶店モフモフの前に、レナ、景子、その景子の彼氏の隆の3人は立っていた。今夜は、あの小湊こみなとさんに食事に連れて行ってもらえる日なのだ。

レナと景子はバイトを休んだ。

3人はまだ、外は暑くて堪らないらしく、喫茶店の屋根の日陰で、小湊を待っていた。

10分後。

「みんな~待った?」

小湊が現れた。ジーンズにアロハシャツで扇子をパタパタさせながら、

「今夜は、オジサンの奢りだ。じゃんじゃん食べてくれ。君たち高校生だから門限はあるよね?」

と、3人に尋ねると、隆は門限はなく、レナと景子は21時だった。

それを確認した小湊は、こっちと扇子で目的地の方向を示し、歩きだした。


『小湊さん、きっとセンスのいい店に連れてくれそうだな』

と、レナは思っていた。

歩いて15分。

赤提灯がぶら下がり、暖簾には「居酒屋千代」と書かれていた。

「幽霊屋敷じゃねえか!」

隆はポツリと声にした。

しかし、入り口の開き戸の中には、外見では想像もつかない広い店内で、清潔感が感じられた。

キレイなお姉さんがいる。小湊と仲良く話しているのを、隆は羨ましく思ったが、景子の前だ、マネ出来ない。


「さっ、君たちはソフトドリンクを注文しなさい」

レナはオレンジジュース、景子と隆はコーラを小湊に伝えて、バイトの折田を呼んだ。

「生と、オレンジジュース1つ、コーラ2つね。後、鯉の洗いと、焼き鳥盛り合わせ3人前」

3人の高校生は緊張していた。居酒屋なんて来たことはない。

いつも、ファミレスのペニーズしか行かないので。


『小湊さん、やっぱカッコいい。流れるように注文してる姿が大人を感じる』


鯉の洗いが届いた、

「小湊さん、鯉って食べられるんですね。池の錦鯉とは違うんすか?」

「まぁ、食べなさい。酢味噌で」

隆は一切れ口に運んだ。

「うんめー」

「だろ?」

「なんで、鯉の刺し身と言わずに、鯉の洗いなんですか?」

景子が尋ねた。

「それはね、身を切り分けたら氷水に漬けて、さっと身をシメらせて水気を取るんだ。だから、洗いなんだよ」

「詳しいんですね、小湊さんは」

「エヘヘ」

小湊はまんざらでもない。

「すいません。お飲み物遅くなりました」


生ビールとソフトドリンクが届いた。

「ムーミン谷へようこそ、乾杯!」

小湊はガブガブビールを飲んだ。

「……ムーミン谷って」

「あれ?君たち知らないの?ムーミンを。岸田今日子だよ」

高校生は3人とも首を振った。

焼き鳥が届いた。

「さっ、みんな、沢山食べなさい」

小湊は大人を演じた。

瓶ビールを飲んでいる。金は銀行で下ろしてきた。

何故か、レナだけはニコニコして、小湊の仕草を観察していた。

景子が焼き鳥を割り箸で外して食べていた。

「君!景子ちゃん。焼き鳥はこうやって、串から外さずに、ワイルドに食べるのが正しい食べ方なんだ。串から外すのは、フライパンでも出来るって、職人を馬鹿にする行為なんだよ」

と、たしなめると、

「すいません。知らなくて」

「いいんだ。これから先、色々勉強しなきゃね。僕は彼女いない歴43年だから、恋愛については、君たちが先輩だよ!」

この晩は8時半まで、食事会が続いた。

小湊は3人にタクシー代を3000円渡し、解散した。

タクシー内で、

「小湊さんをオレは見直したよ。あんな、ビジュアルを馬鹿にしていたのに、今夜の小湊さんはカッコ良かった。な、景子」

「うん、わたしもそう感じた。レナはずっとニコニコしてたよね?」

「だって、カッコいいんだもん」


「今日の飲み代4万円かぁ。高校生の食欲を馬鹿にしてた。来月から残業しよう。でも、レナちゃんかわいかったなぁ。何もしないけど。月曜日もモフモフへ行ってみよ」

小湊はシャワーを浴びて、直ぐにベッドに転がり、イビキをかきながら寝た。

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