第2話 狼人族の少女

 ボルグたちが立ち去った後、檻に入れられた少女を見た。


「とりあえず、ボロボロの服を着替えさせよう……」


 俺は自分の服の中から戦狼人族の少女が着れそうなものを選んで、檻へ戻る。


 庭に戻ると少女は電流のダメージが抜けたらしく、俺を睨みつけた。


「グルルル……」と呻き声をあげている。


「…………」


 俺は深呼吸をしてから、檻の鍵を開けた。


「!!?」


 檻を開けた瞬間、戦狼人族の少女に襲われ、俺は押し倒された。


「ガルル……!」


 目前に鋭い牙が迫る。


「くっ……!」


 俺は命の危機を感じて、ポケットに入れていた魔道具を取り出した。


「!!」


「えっ?」


 すると少女は俺から離れて、身体を丸める。

 明らかに怯えていた。


 先ほど、ボルグにやられたことがトラウマになっているようだ。


「…………!」


 少女は泣きそうな表情で俺を見る。


 先ほど睨んでいた時はまったく違う顔だ。


 確か、ボルグがこの子の年齢は15才って言っていたっけ?


 戦狼人族、ということを除けば、この子はまだ子供なんだ。

 どういう経緯かは知らないが、奴隷として売られていた。

 

 買われた先でいきなり酷い目に遭えば、警戒して当然だ。


 ここでこの魔道具を使って、少女を痛めつけたら、俺はボルグたちと同じになってしまう。


「いいかい、よく見ていてくれ!」


 俺は魔道具を少女に見せつけた。


 少女は痛めつけられると思ったらしく、泣き始める。


「泣かないでくれ。ほら、こうするからさ!」

 

 俺は魔道具を遠くへ投げた。


 その瞬間、少女は泣き止み、驚いた顔になる。


 俺は両手をバッと広げ、

「俺は絶対、君に酷いことをしない!」

と宣言した。


 もし、襲われたら、もう対抗手段がない。


 でも、俺は自分より三つも年下の女の子を道具で無理やり屈服させるようなことはしたくなかった。


「…………」


「お、おい!」

 

 俺が襲われることは無かった。


 でも、少女は気を失ってしまう。

 ずっと張っていた気が途切れたのだろう。


 俺は少女に近づく。


「服を着せる前にまずは体を洗わないとだよな」


 俺は申し訳ないと思いながら、今のうちにこの子の身体を拭くことにした。


 でも、浴室を使ったら、ボルグがうるさそうだ。


 俺は仕方なく、大きな桶にお湯を淹れ、檻までも持って来た。


 でも、こんなところで裸にするわけにはいかない。

 

 俺は少女を武器防具の入っている倉庫へ運んで、そこで体を拭いた。


 大きな怪我はしていないが、切り傷や擦り傷が目立つ。


 俺は回復魔法を使って、少女の怪我を出来る限り治した。


「やっぱり、痩せすぎだよな……」


 少女の身体はかなり骨ばっていた。

 多分、まともな食事をしていない。


 何か食事を作ってやらないと……


「でも、いきなり味の強い食べ物は食べさせない方が良いな。それに胃が弱っているかもしれないから、脂とかもあまり受け付けないかも……。それにやっぱりこの子は人だ。檻に閉じ込めるなんて、狂ってる」


 あいつらに見つかったら、うるさいかもしれないけど、屋敷の中へ入れよう。


 俺は自分の部屋に少女を運び、ベッドに寝かせた。


「さてと何を作ろうかな」


 少女に食べさせる献立を考える。


 でも、その前にあの三人の食事を作らないと怒り出すよな。


 俺は急いで三人分の食事を作って、その間に三人の部屋を掃除する。




「そういえば、さっき、庭が騒がしかったが、どうしたんだ?」


 掃除を終えて、食堂へ戻って来たら、ボルグが尋ねてきた。


「あの子の体を拭いていたんだ。その時にあの子がちょっと暴れた」

と俺は説明した。


「獣人とはいえ、女の子を裸にしたの?」とエナ。

「気持悪~~い」とリリアン。


「まぁ、そう言ってやるなよ。俺にはお前たちがいるが、こいつは女に相手されない可哀そうな奴だ。犬にだって欲情するさ」


 ボルグは言いながら、エナとリリアンに肩組みをする。


「別に犬とヤッても良いが、変な病気になっても知らないからな!」


 三人は笑い始めた。


 俺は何も言い返さない。

 何か言っても、疲れるだけだ。


 俺は気持ちを切り替え、厨房へ向かう。


 そして、戦狼人族の少女の為に料理を作り始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る