第3話 食事と教育
俺は料理を作り、自分の部屋に戻った。
「………………!!?」
料理の匂いに反応したのだろう。
少女は飛び起きる。
少女は体が奇麗になっていたことや服が変わっていることに驚いていた。
そして、キョロキョロし、頭に生えた耳をピクピクと動かす。
それから恐る恐る俺に近づいて来た。
「戦狼人族が何を食べるか分からなかったから、口に合わなかったらごめんよ」
俺は机に肉と野菜のスープとパンを置いた。
スープに対して、少女は警戒して匂いを嗅いでいたが、やがて口を付ける。
するとそこからは早かった。
本物の犬のように皿に顔を突っ込んで食事をする。
あっという間に完食した。
野性的な食べ方をしたせいで折角綺麗にした顔が肉と野菜とスープ塗れになってしまう。
少女は初めて笑顔になった。
しかし、すぐに表情が暗くなった。
どうしたのかと思ったら、少女のお腹がグ~~っとなる。
どうやら、まだ食べたりないようだ。
「おかわりを持ってくるよ」と言ったが、少女はキョトンとしてしまった。
どうやら俺の言葉の意味が分からなかったようだ。
なので、身振り手振りで説明をする。
すると俺が言いたいことが分かったようで、また笑顔になり、尻尾をブンブンと振り始めた。
こんな風に嬉しそうにしてくれると食事の作り甲斐があるな。
ボルグたちも美味しそうに食べてくれればいいのに……
この子と違って、あいつらは肉が良かったとか、魚が良かったとか、野菜が多すぎるとか、文句ばかりだ。
俺はさっきより大きな皿にスープのおかわりを入れた。
それから濡れたタオルを持って、自室へ戻る。
戻ると少女の視線が皿に釘付けになった。
今にも飛び掛かってきそうだ。
「まだ待て」
俺が手を前に出すと少女は少し驚き、身を退く。
スープをテーブルに置いて、濡れたタオルで少女の顔を優しく拭く。
顔は奇麗になった。
しかし、少女はまた顔を皿に突っ込みそうになる。
「ま、待て!」
俺が言うと少女は止まった。
「いいかい、よく見てくれ」
俺はテーブルに置いてあったスプーンを使って、皿の野菜を一つ掬って食べて見せた。
「分かったかい?」と言いながら、俺は少女にスプーンを渡す。
すると少女はぎこちない動きで俺と同じように野菜を掬って、口元へ運んだ。
一緒に掬ったスープがテーブルに零れているし、決して奇麗な食べ方じゃないけど、さっきに比べたら、大きな進歩だ。
思ったよりも学習が早い。
「戦狼人族は知能が低い」とボルグは言っていた。
しかし、この子とのやり取りでそんな気はしない。
テーブルと口元は汚れたけど、少女はさっきよりも人らしく食事を終えた。
「偉いぞ、よく出来たね」
多分、言葉だけだと分からないだろうから、俺は少女の頭を撫でる。
すると少女は頭に生えた耳を後ろに倒して、嬉しそうに尻尾を振った。
それを見て俺は笑う。
何だか、久しぶりに笑った気がした。
「ありがとう」と俺は呟く。
「アリガトウ?」
「えっ?」
俺の言葉を真似て、少女が初めて言葉を発した。
「アリガトウ?」
少女は「ありがとうってどういう意味なの?」と聞いているようだった。
「えっとね、ありがとうは……」
俺はまた手振り素振りで言葉の意味を伝えようとする。
少女は笑ってくれたが、意味をきちんと理解したのだろうか。
そんなことを思っていると少女は空になった皿を指差しながら、「アリガトウ」と言った。
正直、驚いた。
想像以上の理解力だ。
「いいかい、テーブル、スプーン、コップ、お皿」
俺は手近なモノの名称を言う。
「テーブル……、スプーン……、コップ……、オサラ……」
少女は次々にモノを指差して、名称を言う。
全て正解だった。
「良く出来たね」
俺はまた少女の頭を撫でた。
少女は何かを思い、皿を手に取る。
「オサラ、アリガトウ」
お皿、ありがとう?
あっ、そういうことか。
俺は皿の側面を叩いて「お皿」と言う。
次に皿の中を指差して、「ご飯」と言った。
少女はそれだけで理解し、
「ゴハン、アリガトウ」
と言い直した。
その日、夜の遅い時間まで少女は色々なモノの名称を聞くことに夢中になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます