第4話 少女の名前
次の日。
少女の探求心は止まらなかった。
なので、俺は色々な単語を紙に書いて、文字も一緒の覚えさせる。
文字に関してはかなり苦戦しているが、頑張って理解しようとしていた。
さらに次の日。
「あの犬の名前?」
朝食の時にボルグに少女の名前を聞いてみたが、
「さぁな。奴隷商人は特にないって言っていたぞ」
と言い、興味が無さそうだった。
昨日、少女本人にも聞いてみたが、困った表情になった。
どうも名前がないらしい。
「じゃあ、俺があの子に名前を付けていいか?」
俺が言うと三人が笑う。
いつもの馬鹿にした笑いだ。
「なんだ、あの犬が気に入ったのか。どうやら、ずっと自分の部屋に連れ込んだみたいだな」
ボルグが言うと、エナが「うわっ」と声を漏らした。
「別に俺の部屋なら勝手にしていいだろ。お前たちの部屋には行かないように言ってある」
「獣に人間の言葉が理解できるの~~」とリリアン。
「もしかして、あんな獣とヤッたの? 気持ち悪い。そういえば、なんだか犬臭いわ」とエナ。
「そういうことは無い」と俺はきっぱり宣言する。
馬鹿にされるのは慣れているし、今更、頭に来ることも無いと思っていたのに、なんだか今日はこいつらの発言を聞き流すのに苦労するな。
もしかして、あの少女のことも一緒に馬鹿にされているからなのか?
「話を逸らさないでくれ。じゃあ、俺があの子に名前を付けていいな?」
「勝手にしろよ」とボルグが言ったので、俺は名前を考え始める。
「………………う~~ん」
色々な名前を考えるが、良いのが決まらない。
「そうだ、あの子に決めてもらおう」
俺は色々な名前を書いた紙を壺に入れて、自室へ戻る。
部屋の中へ入ると少女が文字書きを必死に行っていた。
「ちょっと良いかな?」と俺が言うと少女は動きを止めた。
俺がテーブルに壺を置くと少女はキョトンとする。
「これから、君の、名前を、決める。この中に、手を、入れて、引いたのが、君の、名前。――分かったかい?」
俺は手振り素振りで説明した。
三度目の説明で完全に理解できたようで、頭に生えた耳をピンとさせ、尻尾をブンブンと振る。
そして、緊張した様子で壺に手を突っ込んだ。
「なかなか選べないよ」と言いたそうな視線を俺に向けてきた。
「大丈夫、嫌だったら、やり直そう」
俺の言葉を理解したのか分からないが、少女は決めたらしく、壺から手を抜いた。
手には一枚の紙が握られている。
俺は折られている紙を広げて、名前の文字を確認した。
「あっ…………」
名前を見て、しまった、と思った。
俺の反応を見て、少女が不安そうな表情になる。
「いや、君は何も悪くない。俺が間違って、これも入れてしまったみたいだ」
俺は少女に紙を見せた。
「これは〝タオグナ〟って読むんだ」
タオグナ、とはこの街の名前だ。
名前を書く前に試し書きをした紙まで一緒に入れてしまったらしい。
「ご、ごめん、やり直そう」
俺はそう言ったが、
「タオグナ!」
と少女は自分を指差す。
「いや、これは違くて……」
「タオグナ! タオグナ!」
少女は嬉しそうに繰り返す。
耳をピンと立てて、尻尾をブンブンと振る。
「…………」
こんなに喜ばれては「やり直し」と言いにくい。
「まぁ、いいか……」
もし、これから先、知識を持って、名前を変えたくなったら、その時に新しい名前を考えよう。
今日、少女の名前はタオグナになった。
タオグナは俺をジッと見る。
「どうしたんだい?」
「ナマエ! ナマエ!」
タオグナは俺を指差して言う。
「あっ、そういえば、俺の名前を教えていなかったね。俺はウェーリーだよ」
俺は自分自身を指差しながら言う。
「ウェーリー?」
「そう、ウェーリー」
「ウェーリー! ウェーリー、アリガトウ!」
「お、おい!?」
俺はタオグナに押し倒されてしまった。
まるで大きな犬にじゃれつかれている感覚になった。
「やめないか、タオグナ!」
俺がそう言ってもタオグナは中々、解放してくれなかった。
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