第12話 タオグナの解放

「さてと用事も終わりましたし、私はこれで失礼しますね」


 ルーチェさんも帰ろうとした。


「あ、あの」


 俺はルーチェさんを引き留める。


「どうしましたか?」


「俺たちはこれからどうなりますか?」


 俺の質問に対して、ルーチェさんは首を傾げた。


「どうも何も、今まで通り冒険者をしてもらいたいのですが、嫌になりましたか?」


「嫌ではないです。でも、三人も抜けて、俺とタオグナだけになっちゃいました。今までみたいにはクエストを出来ないと思います。それにこの屋敷にだって、居るわけにはいかないですし……」


「そんなことを心配していたのですか。大丈夫です。私が保証します。確かに今までとは違った形でウェーリーさんにはクエストを行なってもらうことになると思いますが、悪いことではありません。それに屋敷は今まで通りに使って頂いて、構いませんよ」


「良いんですか?」


「もちろんです。この屋敷はウェーリーさんを評価し、貸しています。ですので、ウェーリーさんが冒険者を辞めない限りは住んでいて良いですよ。ただし、あの三人の私物は借金の補完の為、没収しないといけませんが……」


 あいつらの私物の没収くらいで済むなら、と俺が安心する。


「ところでウェーリーさん、なんでその子は〝タオグナ〟という名前なのですか? 街と同じ名前なのは偶然ですか?」


 ルーチェさんは気になったようで、尋ねて来た。


「実はですね……」


 俺はタオグナの名前を決める際のクジ引きで誤って、街の名前を書いた紙を入れてしまったことを説明する。


 それを聞いたルーチェさんは驚き、そして、笑う。


「やっぱり、街と同じ名前だとまずいですかね?」


 俺の質問に対して、ルーチェさんは、

「別に問題はないと思います。それに今更、名前を変えるというのもおかしいかもしれません」

と答えた。


「さてと今度こそ、失礼しますね。私はこれでも結構、忙しいんですよ」


 ルーチェさんは言いながら、大きな欠伸をした。


「はい、今日は本当にありがとうございました。ルーチェさんが来なかったら、タオグナはどうなっていたか……」


「私としては優秀な冒険者には恩を売れて良かったと思っています。今後もよろしくお願いしますね」


 ルーチェさんはそう言い残して、今度こそ、屋敷から出て行った。



 屋敷には俺とタオグナだけになった。


「本当に良かった……」


「ウェーリー!?」


 タオグナは声を上げる。


 俺が突然、倒れ込んだからだ。


「大丈夫、気が抜けたんだ」


「ウェーリー!」


 タオグナは俺に抱きついた。

 俺は彼女の頭を優しく撫でる。


「あっ、そうだ。ちょっと来てくれるかな」


 俺はタオグナを連れて、ボルグの部屋へ行った。


 テーブルの下を覗くが、鍵が無くなっている。


 それなら、と思い、椅子の下を覗いたら、こっちにあった。


「本当に単純な奴だな」


 俺は椅子の裏に張り付けられていた鍵を手に取る。


「タオグナ、来て」


「?」


 タオグナは不思議そうな表情だった。


 俺はタオグナの首に嵌められている奴隷の首輪の鍵穴に、鍵を差し込み、回す。


 カチッという音がして、奴隷の首輪は外れた。


 タオグナは自由になった首に手を当てて、確認する。


「君はこれから奴隷じゃない」


「奴隷、じゃない?」


「そうだよ。君は俺の仲間だ」


「仲間?」


「そう、仲間」


「仲間!」


 タオグナは耳をピンと立て、尻尾をブンブンと振った。


「よしよし」と言いながら、またタオグナの頭を撫でる。


「さてと、滅茶苦茶になった食堂を片付けないとな」


 俺とタオグナは食堂の家具を元に戻して、割れた食器を片付ける。

 片付けが終わる頃には、俺もタオグナも埃塗れになっていた


 いつもなら桶にお湯を淹れて、タオグナの身体を拭くのだが、もうそんな必要は無い。


「タオグナ、お風呂に入ろうか?」


「お風呂?」


 ボルグたちは居なくなった。

 もう関係ない。


 堂々と浴室を使える。


 でも、問題があった。


 浴室へ入るとタオグナは困惑してしていた。


 屋敷の浴室にはお湯を出す機能があるが、タオグナは使い方が分かっていない。


 俺が説明するとタオグナはお湯を出してみる。


「!!?」


 でも、お湯が熱かったらしく、飛び跳ねた。


「ごめん、ごめん、説明不足だった。えっと……」


 俺は温度を調節し、自分の手に当てる。


「これぐらいでどうかな?」


 タオグナは恐る恐るお湯に触れた。


「……大丈夫」とタオグナは言った。


「ちょっと、目を閉じてくれるかな」


 俺の指示をタオグナは素直に聞く。

 ゆっくりと頭からお湯をかけ始めた。


 嫌がると思ったが、タオグナはじっとしてくれた。

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