第11話 負債

「さてと、これ以上、抵抗するならあなたたちが抵抗できないようにしてから、連行しますけど、どうしますか?」


 ルーチェさんはボルグを解放しながら、宣言する。


「勝手なことばかり言いやがって……! ウェーリーが特別待遇者だとして、ギルドが俺たちに介入する権利があるのかよ!」


 ボルグはルーチェさんに対し、力で敵わない、と判断したらしい。

 口論に持ち込もうとする。


「確かにあなた方のパーティに対して、ギルドは介入する権利を持っていないです。でも、二つのことに関しては介入させていただきます」


「二つのことだと?」


「はい、一つ目は奴隷に関する新法です。ウェーリーがあなた方にも奴隷の人権に関しての資料を渡したはずですが?」


 ボルグは目を見開き、エナとリリアンは下を向く。


「俺たちが奴隷……そこの戦狼人族を不当に扱ったと言いたいのかよ?」


「はい、ウェーリーさんから色々と聞いております」


 ルーチェさんが言うとボルグは鼻で笑う。


「片方だけの意見を聞くなんて中立とは言えないな」


 ボルグは虐待は無かったと言い張るつもりらしい。


「ふざけるなよ! さっきだってタオグナを痛めつけていたじゃないか!」


 俺は声を張った。


「それは躾だ!」とボルグは怒鳴った。


「まぁまぁ、お二人とも落ち着いてください。確かに証拠があることではありませんね」


 ルーチェさんは簡単に引き下がってしまった。


 ボルグたちは安心したようだ。


「しかし、もう一つのことに関しては明確な証拠があります」


 ルーチェさんは言いながら、テーブルの上に紙の束を置いた。


 それを見たボルグたちは顔を真っ青にする。


 俺も紙を確認する。


「借用書、ですか?」


「はい、こちらの三人にはそれぞれ借金があります」


 なんだって?

 それは知らなかった。


 しかし、知らなかったのは俺だけじゃないようだ。


「お前たちも」

「あなたたちも」


とボルグ、エナ、リリアンはお互いに顔を見合わせる。


「ギルドの方へ連絡があったので、あなた方の身辺調査をさせていただきました。ボルグさんはギャンブル、エナさんは宝石漁り、それにリリアンさんは男に貢いでいるみたいですね」


 ルーチェさんは容赦なく、三人の借金の内容を公開する。


「お前、宝石なんかを買って借金をしていたのかよ!?」とボルグが言う。


「何よ、ギャンブルよりもマシでしょ!?」とエナは言い返した。


「二人とも喧嘩は……」


「お前が一番最悪だよ、リリアン」


 ボルグの敵意がリリアンへ向いた。


「俺がいるのに他に男を作っていたなんてな!」


「違うの。聞いて。彼は大商人で投資すれば、大きな利益に……」


「あっ、申し訳ないですけど、リリアンさんが貢いでいた男は詐欺師ですよ」


 ルーチェさんが会話に割って入った。


 リリアンは「えっ」と声を漏らす。


「だから、あなたの貢いでいた男は詐欺師です。顔が良いので、あなたのような女性を何人も騙して、金銭を取ってみたいです。残念ながら、すでに逃走しているので捕まえることは出来ませんがね。その彼と連絡を取ったのはいつが最後ですか?」


「えっと、一週間前に大きな商談が成立しそうだからって、私から追加で百万を借りて……でも、それ以来、連絡は無くて……」


 リリアンは言いながら、蒼白になって言った。


「お前、馬鹿だろ! 騙されたことに気付かないなんて!」とボルグ。

「そうよ、ノロマ!」とエナ。


「何よ、私は投資をしようとしたの! 娯楽に使っていたあんたたちよりはマシ!」


「男に騙されただけだろ!」とボルグが怒鳴るとリリアンは泣きそうになった。


「はいはい、仲間割れは止めましょう。これから仲良く借金を返していくのですから」


 ルーチェさんがパンパン、と手を叩くと男たちが入ってきた。


「な、何のつもりだ?」


「あなた方をギルドから除名します。理由は特別待遇者にとって不利益な存在だからです」


「そんな冒険者が出来なくなったら、私たちはどうやって借金を返せばいいのよ!?」


 エナが泣きそうな声で言う。


「安心してください。こちらの方々が新しい職場へ連れて行ってくれますよ」


「ど、どこへ連れて行く気だ!」


 ボルグが余裕のまったくない声で言う。


「効率よくお金を稼げる職場ですよ。ただし、少しだけ危険なことをさせられるので、死なないように気を付けてくださいね」


 ルーチェさんは笑いながら言う。


 俺はその笑顔が怖かった。


「おい、そんな勝手があってたまるか!」

「イヤ、放してよ!」


 ボルグとエナは抵抗するが、連れて行かれる。


 最後にエナが連れて行かれそうになった時だった。


「待って! ウェーリー、助けて!」


 男たちを振り切って、俺の服を掴んだ。


「リリアン……」


「知っているよ。あなた、私のことが好きだったでしょ?」


 それは事実だ。

 村にいた時はリリアンに好意を持っていた時期があった。


「私を助けて! その代わりにヤらせてあげるから。なんかよりも私の方が絶対に良いよ!」


「…………」


 でも、好意を持っていたのは過去のことだ。


「ごめん、君たちのことはもう顔も見たくないんだ」


 いつからか、俺たちの関係は変わってしまった。

 もう今から修復なんてありえない。


 それにこんな状況になってもリリアンはタオグナの名前すら呼ばない。


 多分、ボルグやエナも同じだろう。


 俺たちはこれから先、上手くやっていけるわけがない。


 俺が拒絶するとリリアンの手から力が抜けた。


 そして、気絶し、そのまま運ばれていく。


 三人を回収した男たちは居なくなり、屋敷には俺、タオグナ、ルーチェさんの三人だけになった。

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