第13話 お風呂と食事

 俺は次に石鹸を手に付けてタオグナの頭を洗い始める。


「まだ、目を開けちゃ駄目だよ。今開けたら、大変なことになるからね」


 俺が忠告するとタオグナは「うん」と返す。


 それから頭を洗い終えて、泡を水で流した。


「もう目を開けても大丈夫だよ」


 俺が言うとタオグナは水分を含んだ髪の毛が嫌だったのか、頭をブルッと振った。


 水が俺にも飛ぶ。


「……ごめんなさい」


 タオグナはしゅんとする。


「気にしないよ。今度は体を洗っていこうか。自分で出来る?」


「頑張る」


 タオグナは手に石鹸を付けて体を洗う。


 でも、石鹸が泡立ちすぎてモコモコしてきた。


「これじゃ、まるで羊だね」


「ひつじ?」


 タオグナは疑問形で聞き返す。


 そうか、タオグナはまだ羊を見たことないのか。


「その内、見れるよ」


 言いながら、俺はタオグナの尻尾を念入りに洗う。


 ここはタオグナが洗いづらそうだったので、俺が洗うことにした。


 体を十分に洗い終えたタオグナにお湯をかけて泡を流す。


 いつもは桶のお湯で体を拭くだけだった。


 これだけ念入りに体を洗ったのは初めてだ。


 心なしか、タオグナの肌艶、毛並みが輝いて見える。


「えっ、あっ、ちょっと待って……」


 タオグナがまた体をブルッと震わせた。


 今度は全身だったので、さっきの比じゃない水が飛び、俺はびしょ濡れになった。


「ご、ごめんなさい」


 濡れた犬がするように多分、反射に近いんだろう。


「いや、良いんだよ。さてと体を奇麗にしたし、今度はお風呂に入ろうか」


「おふろ?」


「あれだよ」と俺は指差す。


 タオグナはビクビクしながら、浴槽に近づく。

 そして、手を入れてみた。


「温度はどう? 熱くない?」


 俺が確認するとタオグナはコクリと頷き、足からゆっくり風呂の中へ入れていく。


 初めは怖がっているようだったが、全身がお湯の中に入ると気持ちいいのか脱力した。


「ゆっくり入ってて大丈夫だよ。でも、入り過ぎには注意だよ」


 俺が立ち去ろうとするとタオグナは湯船から出た。


「どうしたんだ?」


 言いながら、俺は視線を逸らした。


 タオグナは気にしていないようだが、色々と見えてしまっている。


「一緒、入る!」


 その上、そんなことまで言い出した。


「いや、俺は……」


「入る!」


 どうやら、譲ってくれそうにない。


「分かったよ」


 俺は諦めて脱衣所で服を脱ぐ。


 そして、身体を洗ってから湯船に入った。


 タオグナと対面になる。


 この屋敷の湯船は大きい。


 二人で入っても広さは十分だ。


「お風呂、気持ちいい!」


 タオグナはお風呂がとても気に入ったようだった。


「気に入ってもらえて良かったよ…………あれ?」


 タオグナの身体を拭くのが日常化していたから、ある重大なことを失念していた。



 俺、今、女の子と二人でお風呂に入っていないか?



 ヤバイ、意識したら、急に……


「どうした? ウェーリー、顔赤い?」


「な、何でもないよ! さてと、そろそろ上がろうかな」


「ウェーリー、変? なに、隠す?」


 タオグナが俺の前に回ろうとする。


 前はまずいって!


 俺は体を反転させた。


 するとタオグナがまた回り込もうとする。


「やめろ! 俺の前に立つんじゃない!」


「ウェーリー、やっぱり、変」


 でも、拒否すればするほど、タオグナは興味を持ってしまった。


「なんで? なんで?」

 

 タオグナは俺の周りを犬のように回る。


「駄目! とにかく駄目!」


 タオグナは暫くしてやっと諦めてくれた。




 お風呂から出た俺たちは食堂へ戻って来る。


「座って、待ってて」とタオグナに言い残して、俺は厨房へ入った。


 今まで一番楽しい気持ちで料理をしている。


 これまでは食材に制限があったけど、ボルグたちがいなくなったから、気を使う必要もない。


 俺は何種類も料理を作った。


「さぁ、食べてくれ」


 料理が出されるとタオグナは目をキラキラさせる。


「これ、全部!?」


「全部、食べていいんだよ」


「うん!」


 タオグナはさっそく食べ始めた。


 当たり前だけど、あった時に比べるとスプーンもフォークも上手に使っている。


 作り過ぎたかもしれない思ったが、タオグナの食欲は凄まじく全て食べてしまった。


 食事が終わると、タオグナはウトウトとし始める。


 歯を磨いてから、俺たちは寝ることにした。


「んっ? どうしたんだい?」


 タオグナ以外は誰もいなくなったし、俺は別の部屋で寝ようと思った。

 そうしたら、タオグナに服を引っ張られる。


「こっち、一緒」とタオグナは言う。


「分かったよ」


 結局、俺とタオグナはいつものと同じように狭い一つのベッドで寝ることになった。


「一緒、一緒! ずっと、一緒!」


 タオグナは嬉しそうに言う。


 でも、すぐに眠ってしまった。


 ホッとしたし、疲れもあったのだろう。


 それは俺もだった。


 いつの間にか寝て、気付いたら、朝だった。

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