第6話 変わらない待遇

 少しすると拘束魔法の効力が切れて、俺は自由になる。


「タオグナ!」


 横たわるタオグナに駆け寄った。


「平気」と言うが、タオグナは確認できるだけで大きな傷が三か所もあった。


「ごめんな、本当は全部治してやりたいけど……」


 俺の残っている魔力じゃ、タオグナの全ての傷を治せない。


 深い傷だけを優先して止血した。


「他に大きな傷はないか?」


 俺が確認するとタオグナは「ない」と答えた。


「屋敷に行ったら、ちゃんと治療するからな」


 言いながら、俺はタオグナを背負った。

 すると彼女は暴れる。


「平気、歩ける。血、服、汚れる」


 タオグナの声は酷く慌てていた。


「気にしない。これくらいはさせてくれよ。ごめんな、俺を庇ったせいで酷い目に遭わせて……」


 もし俺に戦う力があったら、タオグナは前方の敵に集中できたはずだ。


 そうすれば、ボルグに理不尽なことをされたり、言われたりしなかったのに……


「ウェーリー、謝る、違う。ウェーリー、ご飯、くれる。優しい、くれる」


 タオグナは俺をギュッと抱き締めた。


「私、嘘、ついた」


「嘘?」


「私、守る、ウェーリー、だけ。あいつら、どうでも、いい」


 タオグナは情けない俺を慕ってくれる。

 俺は泣きそうになってしまった。


「ありがとう。今日は肉をたくさん食べさせてあげるからね」


「大丈夫? あいつら、怒らない?」


「バレないようにするさ」


 タオグナは嬉しそうに「ありがとう」と言って、眠ってしまう。


 屋敷に帰る頃には俺の魔力は回復していた。


 回復した魔力を使って、タオグナの傷を治す。


 そして、大きな桶にお湯を入れて持ってきた。


 いつものようにタオグナの体を拭く。


「ごめんな、本当は浴室を使わせてやりたいんだけど……」


 ボルグが許してくれない。


「平気」とタオグナは言う。


「どこか痛いところとかはないか?」


「平気、平気」と言う。


 体を拭いた後は頭、腕、足、尻尾の毛並みを整える為にブラシをかけた。


 するとタオグナは気持ちよさそうに喉を鳴らす。


 ここへ来たばかりの時、荒れていた毛並みは現在、モフモフになっていた。


 特に尻尾は何とも言えない触り心地だ。


「ありがとう」


 俺が念入りに尻尾にブラシをかけているとタオグナはそんなことを言ってきた。


「俺がやりたくてしているんだよ。……ほら、出来た」


 血や泥は完全に落ちて、タオグナの体は奇麗になった。


「さてと……」


 俺が泥とかの掃除しようとするとタオグナが、「私、やる」と言ってきた。


「でも、君は疲れているだろ?」


「大丈夫、私、やる」


 タオグナはそう言って、譲る気配がなかったので部屋の掃除は任せることにした。


 俺はその間に厨房へ行き、タオグナのご飯を準備する。


「もう深夜だし、すぐに作れるものが良いな」


 俺は肉を適当に切って焼いた。


 それから作り置いてあったジャガイモのポタージュを温め直す。


 焼いた肉とジャガイモのポタージュをそれぞれ皿によそった。


 それとパンも追加して、部屋に戻る。


 戻ると部屋は奇麗になっていた。


「掃除、出来た?」


 タオグナが聞いてきたので、皿をテーブルに置いて、

「出来てる、偉い、偉い」

と彼女の頭を撫でる。


 反射的に尻尾をブンブンと振り始めるが、自分で自分の尻尾を掴んで、その動きを止めた。


「埃、駄目」


 自分の意志とは関係なく、動く尻尾を必死に掴むタオグナはとても愛らしかった。


「笑うの、なんで?」


 タオグナは恥ずかしそうだった。


「なんでもないよ。さぁ、冷めないうちに食べな」

 

 俺が促すとタオグナは目を輝かせて食事を始める。


「美味しい?」


「美味しい!」


 タオグナは嬉しそうに料理を食べてくれる。


 本当はもっと色々なものを食べて欲しいが、俺とタオグナの食費は僅かしか充てられていない。


 それに相変わらず、ボルグたちはタオグナに浴室とかを使わせてくれない。


 このままじゃ駄目だと思う。

 

 でも、俺がボルグに何か言っても無駄だ。


 結局、タオグナに対する待遇が変わらないまま、さらに一カ月が過ぎてしまった。

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