No.12「黒文房具」
「ほーらほらこっちへおいでたかしくん。私の部下になれば君の望むものは何でも手に入るよぉ」
「な、なんでも……?」
「おにーちゃん!だめ!そいつは悪い奴なんだよ!」
魔教科書王の手招きにふらふらと吸い寄せられていくたかしくんの、目や鼻や耳からドボドボと悪のオーラが漏れ出し、ゆみこちゃんは背後から引き戻そうと一所懸命に引っ張ってみるが、駄目だった。
「きゃー」
「ゆみこ!」
ぽーんと弾き飛ばされたゆみこちゃんがぺたんと尻もちをつき、キサキが助け起こそうと駆け寄る。
「うう、う……?」
ゆみこちゃんの叫びは、たかしくんの理性に届いたようです。
たかしくんは、魔教科書王の誘いに必死に抗い始めたように見えました。
が。
「どうだい、私の元にくれば、これをあげようじゃないか……」
そう言った魔教科書王は、ジャケットの内側から、黒光りする何かを取り出します。それはブラックメタル製の定規でした。重々しく冷たい光沢を放つ漆黒の文房具。ちょっとした反骨精神をこじらせ始めた少年が「かっけえ……!」とテンションを上げがちなデザインのものです。
「中二文房具……!」キサキが歯噛みした。
思春期に入り、アイデンティティが確立し始めた男子が、周囲とはちょっと違う物に手を出す事で『己の感性こそが独特であり、特別であると錯覚してしまいがちなファッションアイテム』のひとつ。
このカッコよさが判らないなんて、周りのヤツはセンスねえなあ……という優越感そのものがイタいことに気付けず、その理解が無いまま成長してしまうと一般的な感受性との乖離が進み、簡単に言えば『陰キャ化まっしぐら』を起こす、危険な第一歩なのだ。そんなもんをちらつかせて誘惑するなんて、魔教科書王はどこまで凶悪なのか!
「おにーちゃん!らめぇー!」
「行くなゆみこ!兄貴の力は強大だ!近づけばお前まで引きずり込まれるぞ!」
じたばたもがくゆみこちゃんを、キサキが後ろからがっつり羽交い絞めに。
「う、ううう……?」
妹の叫びがたかしくんのまた心に届いたようです。(30秒ぶり二回目)あまり長くは描けませんが、仲間や家族の説得で悪の誘惑と闘い葛藤するやつです。昔の楽しかった思い出とか色んなことを思い出しています。
ケン:「いけない、このままでは……!」
メアリー:「ケン!どこへ行くのですか、ケン!」
ケン;「私はこの混迷極まる状況を打破するための一手を打ちます!」
ケンは突然、あさっての方向に駆け出した。
何かを思い付いたのだ。
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