エピソード11「気持ち÷現実」 

 国語教科書界での戦いは、ひとまず終わった。


 祀葉まつりばキサキにボコボコにされた国語亡者たちはあっちこっちでぶっ倒れたまま呻いており、立ち上がる余力のある者は居ないし、『なぜなに博士』はケンとの包括的言論機動格闘戦、即ちディベートに敗れ、『どうして坊主』は、初めて触れる博愛の抱擁に咽び泣いている。


メアリー:「お……おわったのですね。コングラッチュレーション、ケン!やりました!私たちは勝利を手にしたのです。私はケンに向かって駆け出します。ケンは、蹲り震えている『ドクターなぜなに』を複雑な表情で見下ろしています。彼はきっとこう考えているのでしょう。『勝利とは一体何なのか?』思想の対立に勝敗を求めることは果たして正しいのか?しかし私はそれを重要なことだとは捉えていません。私の愛する人がその意思を貫き、今もまだ立っていることが喜ばしいのです!私はこの歓びを彼と分かち合いたい。ハグを交わし、情熱的なキスを耽りたいのです。遠回りな比喩表現なんてファック・オフ!衝動に身を任せてテイク・オフ!」



「…………」

 たかしくんは、蚊帳の外です。


 メアリーはおよそ時速40kmでケンに飛びつき、ふたりは映画でしか観たことがないような感じでアレしてますし、一方で妹のゆみこちゃんは、『どうして坊主』を慰めるので忙しそう。


 この流れなら、国語亡者を蹴散らしてなんだか格好いい立ち姿をキメているキサキおねえさんの所に走っていって抱き着きついても数的に収まりが良いので許されるんじゃないか、と思いましたが、たぶん、ひっぱたかれるでしょう。様々な関係性を基に計算してみましたが、いかなる四則演算を駆使したところで、盛り上がった情動と、疎外感を割り切ることは出来ませんでした。


 ぞわわわ~。


 算数アーマーに身を包んだたかしくんの心から、闇が溢れ出します。


「……こ、こんな気持ちになるくらいなら、愛なんて要らないやい!」

 たかしくんは、昭和の小学生っぽい口調で闇堕ちしました。



 その時です。

 ブロロロン!キィィ、バタン!


 スマートに走ってきた黒のセンチュリーの後部座席から、魔教科書王がぬっと姿を現しました。


「おやおや、思ったよりやるじゃないの。悪足掻きもそこまでいくと感心しちゃうよね全く」

 濃紺のスーツをびしっと着こなす魔教科書王は、先ず辺りを見回して、それから各々の顔を観て、そして、祀葉キサキに微笑みかけます。


「久しぶりだね、キサキ」

「兄貴……!」


 なんと魔教科書王は、祀葉キサキの生き別れの双子の兄でした。よく見たら瓜二つ。初登場時に外見の描写がほとんどなかったのはこの瞬間のショックを増すための小説的な叙述表現だったのです!すごい!

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