十番目「それぞれ気付き、傷付き」
遂に動き出した魔教科書王の魔の手が迫りつつあることを知る由もないケンたちは、未だに国語教科書での戦いにいっぱいいっぱいだった。
ケンと『なぜなに博士』の口論はまだ続いているし、その一部始終を見守るメアリーは胸に手を当てて「ケン、頑張ってください。私はあなたの信念が正義を達成することを信じています……!」と、胸の前で両手を握りしめてヒロインぶったツラをしているし。
「いたい!いたいいたい!うう、うわーーん!ごめんなさいー!」
そんなこんなしているうち、算数アーマーたかし君と算数魔法美少女ゆみこちゃんによる文房具トーチャータンデムの責め苦に耐え切れなくなった『どうして坊主』は、いよいよギャン泣き。
「どうして?どうして!」
「どうしてボクをぶつの?ボクはただ知りたかっただけなんだ。なぜ父さんと母さんはボクを捨てていったの?その理由をボクなりに納得したかっただけなのに!子供だから複雑な事情は理解できないだろうだなんて思わないで!ボクのアイデンティティは、判らないことを誰かに教えてほしいという好奇心だけなんだあ!」
大体のことを白状した。
なぜなに坊主が何故しつこく人に質問する知りたがりなのかが明らかになったのだ。
「ご、ごめんね」
地面に丸まって咽び泣く『どうして坊主』が可哀想になった、たかしくんとゆみこちゃんは、流石にそれ以上の攻撃はやめて謝りました。正直、凄い力を手に入れた高揚感に酔い、それをただただぶつけていただけだという事に気付いた瞬間です。
定規によるひっぱたきが35回、コンパスの持ち手によるグリグリが21回。その物理的苦痛に過去のトラウマを掛けたダメージ総量は容易く数値化できるものではありません。
「ごめんね。私が全部聞いてあげる。話してもいいよ」
ゆみこちゃんはそっと、『どうして坊主』の頭を抱いて優しく言ってあげました。
「…………」
たかし君はその様子を見て複雑な思いを抱きます。ついさっきまで本気でベチベチ叩いていた敵に絆されたからと言って、そこまで急に優しくできるん?てことは逆もありえるん?幼いながらも女心の怖さの一端を垣間見た気分です。いつだって「おにーちゃんだーいすき!」とベタベタくっついていた妹が自分の元から離れ始める瞬間だとも悟りました。
その一方で、ケンと『なぜなに博士』との舌戦にも終止符が打たれつつあった。
「くっ……そうだ。私にだって解決できない問題はある……!SDGsの理念は確かに大切だが、本質とかけ離れた過剰な環境保護は人々の暮らしを精神的に貧しくしていくことも否めない。表面上の課題を達成することに囚われて、人々の目が物事の本質から離れていっては本末転倒だ……!」
簡単な答えを導き出すのではなく、ずっと考え続けることが大切なこともあると気付かされた『なぜなに博士』は肩をがっくりと落とし、その場に膝から崩れ落ちた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます