チャプター9「出現!黒幕・魔教科書王!その目的とは」

「ううーん、いつまで遊んでんのさっさと終わらせなさいよ!」


 遅々として進まない征服計画に業を煮やした魔教科書王は、自ら出陣することを決めた。


 たいてい、黒幕というのは色んな経緯を経た上で、様々な案件をクリアしていった末に満を持して出ていくがセオリーではあるが、このご時世、そんな受動的な態度で物事が前に進むことなんてそんなにあることじゃあない。


 いくら崇高で壮大な考えを持っていたとしても、具現化する為の行動を起こさなければ何も成し遂げられない。でんと構えて余裕たっぷりに待っているだけで勝手に何かを達成できるのは、余程の才能と強運を持ち合わせている者だけだ。何かを望むのであれば、いつか勝負に出るタイミングがある。それが今なのだ。


 そして、魔教科書王の邪悪な企み。


 それは、全ての教科書の全ページに広告を掲載できるようにすることだった。


 年端も行かない少年少女の潜在意識に消費への欲求と快楽を植え付け、何も考えずにネットでポチポチする購買マシーンへと育てあげてしまう。


 そのために経済界の有力者と手を組み、官僚や政治家を抱き込んできたこの数年は、魔教科書王にとっても辛く厳しい道のりだった。だがしかし!時は来た。教科書世界を統一し、支配すれば魔教科書王が密かに立ち上げていた会社の株価はうなぎ昇り、青天井。インサイダーにも手を染め、莫大な富を生むだろう!


「やっぱりさあ、部下には任せておけなかったなァ。私がね。行かなかなきゃ始まんないの。ごめんね、もう行かなきゃだわ」

「えー。もうちょっと遊んでいってよ~魔教科書王さまー」


 連絡を受けた魔教科書王がネクタイを締め直して立ち上がると、ソファにはべらせていた周りのクラブのおねえちゃん達が恨めしそうに見上げた。中にはお兄ちゃんもいる。


 ちなみに、ここは、元、保険体育の世界である。

 男女の性差とか何やらを青少年に叩き込むにはこの形式が手っ取り早い。

 あとはほら、色んなほら。からだのしくみとか。


 群がる女性と男性を振り払って、キャバレー『保険体育』の表に出た魔教科書王は、待たせてあった黒塗りのベンツへと歩み寄った。


 小雨が降りしきる暗天のもと、ビガビガと明滅するネオンサインの光が、濡れた地上を艶めかしく彩る。


 ベンツの脇に佇む初老の運転手が丁寧に一礼した。


「お仕事ですか、魔教科書王さま」

「まあね」


 後部座席に乗り込んだ魔教科書王は、ワイングラスを揺らしながら、流れていくネオン街の光のラインに、じきに手に入るであろう教科書世界に君臨する自らの姿をオーバーラップさせ、ほくそ笑んだ。

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