七転「大造じいさんと」

メアリー:「うう……いたた。私は何らかの攻撃を受け、壁に大穴を開けるほどの衝撃で叩きつけられましたが、なんとか無事だったようです。今、私はのそのそと穴から這い出しています。怪我一つないのは、キサキ祀葉が語っていた、選ばれし者特有の能力なのでしょうか?恐らくそれは正しいでしょう。敵として現れた【どうして坊主】と闘っているタカシやユミコの姿を観れば、朧げに理解できることです。その一方で、ケンは英語特有の文法を用いた言論倫理性で勝負しています。それはワンオブザマストを多用する、最も使い勝手の良い表現方法の一つです。【なぜなに博士】は何でも答えると豪語していましたが、哲学的命題については簡単に答えを導くことはできないようです。そしてキサキ祀葉は、次から次へと襲い掛かる国語亡者の群れを蹴散らしています。彼女が武器として振るっているのは何らかの辞書でしょうか?私はKANJIを読む事ができませんが、どうやらタイトルは三文字の様です。ああ、しかし。なんという質量でしょう。あんなもので人の頭を叩いて無事で済むとは思えません。かなりの破壊力です。メコリ、メコリという重い音を響かせ、キサキは国語亡者をメッコメコにして、その大部分を片付けたようです。これは私たちの勝利と言えるでしょう。あ、しかし、遠くに人影が……そして閃く光が。あれは――」



「ッ!」

 キサキは彼方で煌めいたスコープの反射光に敏感に反応し、手にした広辞苑で、自分の頭部を正確に狙った銃弾を受けた。12.7mmの弾丸は破壊的な威力を発揮するが、そこは流石の広辞苑。バスン!と鈍い音を立てて、半分程度貫通したところで見事に弾丸の威力を殺して防ぐことに成功した。


 だが、その衝撃はやはり凄まじく、直後に響いた発砲音と、舞い散る紙屑と共に、キサキの身体はざざざざ!と後退る。そして――。


「……大造じいさん!そんな、あなたまで……!」

「ふふふ、人間は自分が一番強いと思っている。だけど、それは違うのだよ……」


 硝煙が燻るバレット・ファイアーアームズ社製、M82対物狙撃銃を軽々と肩に乗せた大造じいさんが、もう片方の肩に隼を乗せながら、ゆっくりと歩いてきた。


 魔教科書王の闇に蝕まれ、闇堕ちしてしまった大造じいさんは、持ち前の射撃能力と、主にタニシを利用した数々の罠を張り巡らせて戦う強敵である。ついでに隼も使役し、近接戦闘にも対応するイーグルテイマーでもあった。


「私の銃には力がある……!私が望めば、私の銃で何もかもを撃ち抜き、倒すことができるのだ!」

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