#16

『ユガミをすぐに解放しろ、セルジオッ!!』

『落ち着けよ、ルークくん。怒るのはワタシの話を聞いてからでもいいだろ?』


 怒りのままに詰め寄るルークをいなしながら、セルジオは机に置かれたタブレット端末を拾いあげる。バイタルや体温を記録するグラフが表示された。


『立派な健康体だ、彼女は。一時的に意識を失っているが、それは覚醒に伴う副反応のようなもので……』

『どうでもいい。なんで……なんでこんなことを!?』

『人類種が制御するためだよ。自我を持った人造天使は、あまりにも厄介なのでね!』


 黙りこくっていたロイが静かに祈りを捧げ、ロザリオを握る。彼の視点からは巨大な十字架を見上げる形になった。


『セルジオ・ビット! 異端尋問官として尋問を行う。貴方が聖教会を裏切り、この教団に所属した理由を応えなさい』

『当然、盤石な研究資金と人造天使のためだよ。厄介な権力闘争で消耗するくらいなら、ワタシはこの研究成果を他の組織に渡すことも厭わない。……現に、ここも終わるだろう?』

『この研究成果を同盟に提供すれば、シンリエと聖教会は貴方の身の安全を確保します。だから、すぐに明け渡してください』

『……どこまでが本音だい?』


 瞬間、無数の人間が廊下を駆ける音が響く。足音から感じられるのは、それらが重装備を行なっていることだ。特殊部隊が、じきにこの部屋を包囲する。


『シンリエと聖教会の同盟? ワタシが思うに、それは一時的なものだろう。今はワタシや父祖といった共通敵が居たから組んだ同盟だ。事が終われば、二つの組織は人造天使をめぐって衝突する。手放す訳にはいかないよ!』


「セルジオ、部隊が来る前に教えてくれ。どうすれば、人造天使を殺れるんだ?」


 間に合った。足を引きずりながら、俺はセルジオに接近する。片手に構えた銃は、しっかりと相手の眉間を捉えている。

 セルジオは両手を挙げると、苦々しげに笑った。全てに勘付いたかのような表情だ。


「なるほど、なるほど……。キミたちが組んでいるのは知っていたが、組織としての行動ではないな? クーガーの差し金か?」

「無駄話はやめて、答えろ」

「まぁまぁ、まだ時間はあるんだ。ロイくん! ヴィンセント教導師長について、ひとつ話してない事があった。彼の最期についてだよ」


 銃を向けられながら、セルジオは手元のタブレットを操作する。十字架が微かに動いたことを、俺とロイは気付かない。


「キミの父親は溺死だった。遺族には酒酔いによる事故だと伝えたが、それはプロジェクト秘匿のためだ。ヴィンセント教導師長は、49人目だった」

「……なんの話ですか?」


 やめろ。

 俺の叫びは、口から放たれた瞬間に声にならない声に変わる。止められない。ロイに、真実を知られてしまう。


「下手人と組むとは、キミも皮肉だね。ヴィンセント教導師長を殺したヤツはそこにいる。ラルフ・クーガー。またの名を“エイシスト”クーガー。聖職者専門の殺し屋だ」

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