#7

「というわけで、俺の作戦は着実に進んでる。あとはロイの援護に向かうだけだ。そのための障壁は、早めに処理しておきたいよな?」


 構えたマグナムの反動は重く、病み上がりの俺が何発も撃つのは難しい。胃の腑が響くような衝撃が体を蝕むが、エンリコの医療技術がそれを補った。アドレナリンが体内で行き交い、高揚が痛みを忘れさせてくれる。


「……お前たちは〈蝾〉ロンの本拠地に侵入したんだ。報いを受けてもらうぞ」


 青龍刀で連合の兵士を斬り伏せ、老龍は血が滴る刃の鋒を俺に向ける。先ほど命中したはずのホローポイント弾は奴の肩を砕いたはずだ。インプラントによって硬化された右腕には火花が散り、脱力したかのようにぶらんと垂れ下がっている。


「片腕一本で俺を殺せるかい?」

「当然、充分だ」


 駆ける。

 振り抜く。


 アドレナリンで覚醒した俺の視界は鈍化し、ブーストされたクロームの推進力によって繰り出される神速の一撃を見切る。斜め下からの逆袈裟斬り、遠心力を活かした唐竹割り、心臓を的確に狙う連続突き。どれも正確無比だが、既に見た。俺なら回避できる。そのはずだった。


「頼むぞ、朋友」


 身動きが取れない。背後で俺を羽交い締めにするのは、例の多腕信徒だ。圧倒的な膂力で俺の腕を掴み、胸を反らされる。1発目の剣閃は回避不可能、致命傷になりうる!

 血飛沫が舞った。胴から滴る血をなんとか抑えながら、俺は笑みを作る。老龍の表情は仮面越しで見えないが、平常ではいられないはずだ。


「……おいおい、これで終わりか?」

「減らず口が」


 老龍は多腕信徒を追い払うと、俺の髪を掴んで持ち上げる。次の一撃は、明確に首を刎ねるつもりだ。火花が散る片腕に青龍刀を固定し、動けない俺を殺すのだろう。


「……好都合だ」


 懐のマグナムによる零距離射撃。反動衝撃が俺の腹を叩き、数メートル吹き飛ばされる。喰らった側の老龍はオイル混じりの血を噴き出しながら、腹に空いた穴から漏れるスパークめいた電気刺激を呆然と眺めている。


「油断したな。何が機械化だ、人間味バリバリ残ってるじゃねぇか」


 俺は老龍のメットを銃底で破壊すると、困惑する奴の頬を殴り飛ばす。これで、当分は起きてこないだろう。

 痛む身体を引きずりながら、俺はロイの後を追う。同時に持ち込んだ小型テレビの液晶画面を確認すれば、トーチと火炎信徒も戦闘の最中だ。彼らはどちらも向かい合ったまま沈黙している。トーチが戦うのは、火炎信徒と多腕信徒。どちらも実力のある信徒だ。


「理解した、状況と貴公らの戦闘を。懺悔と断罪の場だ、これからの此処は」

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