#6

 老龍は青龍刀を構えると、俺の首を横薙ぎに刻む一撃を見舞う。致命部位を狙う、機械のように正確無比な一撃だ。走馬灯めいて鈍化する時間の中、俺は獣めいた前傾姿勢で一撃目を回避。隙のできた老龍の肺を狙い、鉄パイプの刺突を放つ! 反撃は老龍の状況判断により命中せず、俺たちは瞬間的に距離を取った。


「……場所を変えよう、老龍。ここじゃ俺が不利すぎる。狭いエレベーターで殺し合うつもりか?」

「黙れ。貴様はここで死ぬだけだ」

「……プライドとかねぇのかよ、冷血人間」


 老龍は壁を蹴って跳躍。高所から速度を伴って振り下ろされる一撃は、眉間を狙う唐竹割りだ。俺は質量を伴って落下する刃にパイプを沿わせ、遅れて着地しようとする老龍の胴にハイキックを見舞う! 骨の代わりに埋め込まれた老龍のクローム・インプラントが軋み、ダメージを受けたのは俺の脚だ!


 反発と回避を繰り返し、俺は隙を見て逃走を図る。分が悪い戦いであることは確かで、せめて銃を構える時間が必要だった。俺は4度目の刺突を寸前回避し、ホルスターに仕込んだマグナムを抜く!

 狙うは老龍か、改造信徒か。求められる瞬間的な状況判断は、俺が捉えた視界からの情報で容易に上書きされる。多腕信徒が、ロイの身体を掴んで持ち上げているのだ。


「は、なせ……」


 背後からは老龍が迫っている。自らの生命を優先するなら、取る選択肢はひとつだ。昔の俺なら、躊躇なく老龍に集中しているだろう。

 だが、今は違う。俺は背後の老龍に引き金を引くと、その勢いを跳躍に利用する。フリップジャンプで空を蹴り、2発目の弾丸を多腕信徒に浴びせる!


「悪いな、今日は欲張りなんだ」


 自らを掴む腕が爆ぜ、支えを失ったロイは床に転がる。殺傷性を極端に高めたホローポイント弾だ。人体を破壊するのに特化している。

 緑の体液を撒き散らし、多腕信徒は俺を睨む。千切れた腕はエネルギー供給を失った瞬間に溶け、培養液めいた水溜まりと化した。そいつが力を込めると、傷口から新たな腕が生えてくる!


「プラナリアかよ……」


 背後には老龍、向かってくるのは多腕信徒。数メートル離れた場所でトーチと火炎信徒が睨み合う。父祖は尚も玉座に座っているが、そこにセルジオの姿はない。


「ロイ、ここは俺たちが引き留める。もうじき連合側の兵士が突入してくるから、その機に乗じてアジトの深部に突入しろ。俺の予測が正しければ、セルジオの研究室があるはずだ」

「クーガーさん。なんなんですか、これ。みんな傷ついてるのに笑って、幸せそうで……」

「落ち着け。お前はやるべきことをやるんだ。いいな?」


 言葉通り、広間に続く別の入り口から現れた味方軍兵士の群れが信徒たちに襲いかかる。対する信徒たちも、それぞれが暗殺教団としての力を持っている。広間を血と硝煙の匂いが包み込む中、俺に肩を叩かれたロイは意を決して駆ける! 俺も後に続くことを約束し、多腕信徒と老龍を同時に相手取ることを決めた。


「死ぬつもりはねぇよ、俺は」


 周囲を囲むガスマスク集団の1人が徒党を離れ、ロイの歩いた方向へ向かっていく。俺はその様子を視界に捉えつつ、目の前の状況に集中する。

 その信徒には、他の連中とは異なる自我めいたものがあった。

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