#5

 突入は、迅速に行われる。エレベーターに乗り込んだ俺とは別に、別通路から目的地に向かう志願兵の一団も控えている。この中から何人生き残るのかは解らない。それでも、セルジオは生かしたまま情報を手に入れる必要があるのだ。


「頼む、間に合え……」


 祈るように小型モニタの液晶画面を覗けば、地下の鉄火場は激しい戦闘状態だ。

 トーチとロイを取り囲むガスマスク集団の一人が、吹き飛びながら爆ぜる。巨大な機械腕が振るう一撃は殴打だけで敵の頭をスイカのように破裂させるのだ。一意専心、眼前の障害を突破するために研ぎ澄まされた殺意を振るうトーチは暴走殺戮特急めいて、その陰で呆然と立ち尽くすロイに道を拓いている。


『行くんだ、お前が。さっさと確保して尋問しろ、セルジオを!』


 その様子を笑いながら見つめる父祖は、残った信徒にかつての自分の死体処理を命じる。傍に立つセルジオとロイ達の距離はたった十数メートル。無数の肉壁が、彼らの行動を阻む。


『セルジオ、例の実験の首尾は?』

『さて、そろそろ効果が出始める頃ですか。何人が適合するかは賭けですが……』


『アガッ』

『アッ……アァッッ……』


 ガスマスク集団の数名が小さく痙攣し、肉体を脈動させる。電極を刺されたカエルめいて数度筋肉を弛緩させたあと、脈動した身体の一部が風船のように膨らみ始める。幸福そうに笑いながら、彼らは異形に成り果てた。


『サイバネティクスだけが人間の可能性ではないッ! バイオテクニカによって新たな可能性を探ることも……人間には不可能ではないのだよ!』


 信徒の一人が変形を完了する。脇腹に生えた筋骨隆々の二本腕が、呆然としているトーチを襲う! 機械腕とバイオ腕が衝突し、衝撃波を生み出した!

 信徒の1人は肌を掻きむしると、摩擦熱でその体を発熱させる。身に纏っていた服を燃やしながら、自らの身が爆ぜることも視野に入れずに突進する! トーチの足を掴むテイクダウンめいた動きだ。一瞬の隙を付き、標的の自由を奪う!


『いいぞッ! そのまま侵入者を殺せッ!』


 叫ぶ父祖に同調するかのように、火炎信徒がトーチを掴み上げる。熱く燃える腕で強靭な肉体に火傷を起こさせると、そのまま腹を締め上げる!


『グッ……ァァァ……』


 トーチは苦悶の声を挙げ、闇雲に周囲を殴り つける! 圧縮蒸気が周囲を包み込み、場内は白煙に包まれた!


「……間に合え!」


 俺の叫びに呼応するかのように、エレベーターは静かに開く。そこには、とある男が待ち受けていた。


「久しぶりだな、クーガー」

「……老龍」


 流線的なヘルメットに長い髪。前に会った時よりも身体をサイバネ化させた暗殺教団一の殺し屋が、眼前に立っていた。


「邪魔をしないでくれないか、老龍くん。まったく……随分な挨拶だ。俺に撃たれた気分はどうだい?」

「……黙れ」


 老龍は駆動音とともに腕を格納し、青龍刀を出現させる。対する俺は壁から鉄パイプを抜き取り、攻撃に備えた。


「2度目だ。結果は見えてるだろ、老龍」

「仕留め損ねただけだ。次はない」

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