#15
輸送用ヘリが飛び立ち、屋上は無風だ。僕は立ち尽くしたまま、セルジオと名乗る男の話に耳を傾けていた。
「そうだ、君には聞く権利がある。実存体を生きたままここまで誘導し、半覚醒に留めてくれたのだから」
「……説明しろよ、全部」
セルジオはタブレットを取り出し、ドローンのカメラ越しに映る“何か”のシルエットを僕に突きつける。普段はホロ迷彩によって巧妙に隠されているそれは、ユガミが目指した目標の正体だという。奇妙な感覚に襲われ、僕は何度も瞬きをする。見たことがないはずなのに、既視感があった。
「これ、ユガミと初めて会った時の……」
兄貴が死んだ時に横切った巨大な影。不思議な哭き声で僕の心を癒した、この世ならざる者。天使か女神か幽霊か、その正体は巨大な浮遊する白影だ。
この〈思念体〉とユガミが接触して完全な融合を果たせば、半径数kmにいるあらゆる生命体を信仰の名の下に意のままに操れるという。検証の結果、それは最も避けるべき事態だとセルジオは言った。
「人工物が自らの意思で人間を制御する……。面白いが、あってはならないことだろうね。半覚醒のうちに偶像化すれば、信仰の力は制御可能だ。ビリーバーの願いにより奇跡を起こす、本物の御使いが生まれるんだよ」
「でも、ユガミはそんなこと望んでなかった。アイツが欲しがったのは本物の自由で……」
「分離後に人間の魂を上書きして新たな自我を得ることは予想していたが、そんな願いまで持っていたのか!?」
セルジオは興味深そうに笑うと、話を終えたとばかりに引き返そうとする。瞬間、僕の心に相反する感情が行き交った。
別れ際のリーダーの言葉を思い出す。好きに生きろ、と言っていた。それが能力によって植え付けられた信仰心でも、目的のために利用され尽くした逃避行であっても、分の悪い賭けに自分の命を差し出せるか?
かつての仲間は果敢に獄門會と戦い、命を賭した。リーダーは組織を犠牲にしてでも、自分の役割を果たそうとした。僕は……殉教さえできなかった。
「……ひとつ、教えてくれ」
僕は静かに目を開く。世界はいつだって曖昧で、俯瞰などできない。冷静になるな、ルーク。
「暗殺教団からユガミを取り戻すには、どうすればいい?」
僕は僕の意思に従う。例えそれで世界がどうなろうとも、終わりまでその行く末を見守る。
「それを私に聞くのかい!? ……何らかの行動を起こすのは無謀だとは思うが、組織にあるひとつの懸念事項だけは伝えようか。ワタシは隠し事ができないんだ」
セルジオは胡散臭い笑顔を貼り付けたまま、小さく呟いた。
「実存体……君がユガミと呼ぶものを、殺そうとしている人々がいる。聖教会にシンリエ……それと、エイシスト・クーガー」
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