#14
思考がグルグルと脳を行き交い、僕の意識は水を打ったかのように静けさを取り戻す。屋上に来てから、熱に浮かされたかのように僕の心は動き続けていた。どこまでが自分の本心だ?
眼前で、ユガミは浮遊している。赤い瞳を輝かせ、それまで前髪の一部だけだった白髪は全面がアルビノめいた白だ。呼吸と呼応するように、背後にはヘイローめいた光輪が輝いていた。——それは、まるで。
「……半覚醒、といったところだねぇ。完全融合とまではいかないが、信仰の依代としては充分だ!」
背後からの声は、妙に快活だ。怪訝な表情で後ろを振り向くと、そこには白衣の男が立っている。ブロンドの髪と青い瞳、人好きのしそうな笑顔。見たことのない顔だが、そんなことはどうでもいい。今は、ユガミの事だけが懸念事項だ。
「失礼、名刺を切らしていてね。新しいものを発行しないとな……」
「……ユガミは。なぁ、ユガミはどうなったんだ!? 頼む、教えてくれ」
「一言で云えば、彼女は核であり魂だ。人間の意識に擬似人格を貼り付けた、外付けの信仰集約装置。わかるね?」
男はそう言うと、仰々しく手を叩いた。上空から飛来する輸送用ヘリは赤漆塗りで、無数のワイヤーやキャビンを装備している。見るからに例の暗殺教団の差し金だろう。
「……牽引しろ」
男の宣言と共に、キャビンから発射された無数のワイヤーがコンクリート床に突き刺さる。ユガミのいる箇所を切り取り、吊り上げる魂胆だろうか。止めようと駆ける僕を制し、男は笑った。
「君の働きは聞いているよ。だが、これ以上実存体に近づけば君は無事でいられない。ここは、我々に任せてもらおう」
「ふざけんな、そんなのは彼女の望みじゃない! ユガミは自由になって、目的地に……」
「目的地に着いて、どうする? 彼女の行動が、最初から融合目的だとすればどうする? 逃避行が、最初から仕組まれたものだと気付いたらどうする?」
男はニコニコと笑いながら、ゆっくりとキャビンへ引きずり込まれていくユガミを拍手で見送る。その様子が、妙に悔しかった。
「……アンタ、何者だ? ユガミとどんな関係があるんだよ!?」
「セルジオ・ビット。元エンリコの主任研究員にして、今は
「そうか。もうひとつ教えてくれよ、お父様。ユガミの本当の正体ってやつを」
セルジオは満悦そうに笑った。
「あの子は天使だよ。文字通り、信仰のイコンを手に入れる為だけの傀儡さ」
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