#7

 翌日。コウロ地区の目抜き通りは快晴で、人々の喧騒と野外屋台の料理の香りが充満している。僕たちが味わえない表の世界の明るさだ。

 日陰となる路地裏に潜みながら、招集された〈鉄火40〉のメンバーは臨戦態勢だ。リーダーの呼びかけに応じて現れた面子は全員が好戦的で、普段から衝動の発散先を探しているような連中だ。戦闘経験のないメンバーやまだ小さい子どもたちにはアジトの防衛を任せ、精鋭でぶつかるつもりらしい。


「……いくぞ、お前ら」


 円の中心で重々しく言葉を発するリーダーが集合前に胃の中身を全部吐いていたことを、僕だけが知っている。恐怖を紛らわすために吸っていた粉末の効果か、リーダーの目には既に覚悟が宿っていた。

 僕とユガミを助けるために命を張るのではなく、あくまでもペイバックが目的であるという。今まで俺たちをナメていた奴らに実力をわからせる、と豪語し、彼は薄く笑う。


「そして、久しぶりだな。ラオ、お前は何も変わってないよ」

「アンタは変わりすぎだよ。一瞬、誰かわからなかったさ」


 僕たちチームから離れた位置に立つ男は、暗殺教団の幹部である老龍ラオロンだ。流線形のフルフェイスメットから伸びる長い黒髪が靡き、白い人民服で覆われた両腕は高価なフルクロームが覗く。テックオタクのメンバーが息を呑むほどの逸品を、負傷した腕の機能をアップグレードするため数日前に換装したらしい。

 リーダーと老龍は幼い頃からの腐れ縁らしく、数年前に老龍が教団に入ってからは袂を分かったという。久しぶりの邂逅だが、その空気感は緊迫していた。


「最初に言っておくが、報酬は金だけだ。仲間をお前らの組織に売るつもりはないし、これ以上近づくつもりもない」

「それなら、俺が守れるのはアンタくらいだ。他の奴らが人質に取られたとしても、そいつの命は勘定に入れずに敵を殺すさ。それでいいだろ?」

「俺もお前に守られる気はねぇよ。自分の仕事に専念しろ」


 昼の鐘が鳴れば、全身全霊を賭した抗争の火蓋が落とされる。最初は不意打ちで、その後本格的に抗争が始まるのだ。僕は一抹の不安を抱えながら、老龍に手渡された発信機を自分とユガミに着ける。


「お前ら、配置につけ! 全面戦争の始まりだ!!」

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