#6

 ユガミの話は、結論から言えば到底信じられるものでは無かった。彼女の過去は明らかに荒唐無稽で、乱打される固有名詞の雨に僕の後悔は加速する。辛うじて理解できたのは、彼女がなぜ獄門會のボスの元から逃げたかだ。


「要するに、あそこに行きたい……そういう事だな?」

「そうだよ、それがあたし流のレゾンデートルってやつ!」


 僕が見下ろした先には、コウロ地区の豪奢なオリエンタル装飾と無数の行燈が架けられた目抜き通りが存在する。極東の文化はこの地区がシンリエ宗のお膝元であることが由来であり、同時にとあるカルトの存在を浮き彫りにする。獄門會でさえ衝突を嫌がるアンタッチャブルな存在。極端な神秘主義によって外部からの強大な噂だけが独り歩きする、練度の高い暗殺教団。〈蝾〉ロンの名は、裏路地なら乳飲み子さえ知っている。


「ユガミ。アンタが目指す場所に行くためには、あの大通りを通る必要がある。コウロ地区のメインストリートだ。ただ、あそこにはきっと追っ手が張ってる」

「なるほどね。それは厄介だ」

「そこで、だよ。もしかしたら、いいアイデアが浮かんでいる人がいるかもしれない。ねぇ、リーダー?」


 僕が振り向くと、憮然とした表情でリーダーが立っていた。


「獄門會に二度の許しはない。今回の件はお前を追放するだけで終わらないのは確かだからな。……使いたくないコネも使うさ」


 〈鉄火40〉はどの組織にも属さないストリートギャングだ。中立の為には、周辺組織との交渉が不可欠だった。特にリーダーは調整の矢面に立つことが多く、組織の大人のえげつなさを一番知っている。


「ラオを……老龍ラオロンを呼ぶ。うちの奴らも招集する。こうなりゃ、全面戦争だよ」

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