#2
曖昧な色の空は時間が経てば元の均衡を保つ。広告ホロの歪みは修正され、再びけたたましいPR音声を流し続けている。
僕の眼前で小首を傾げて笑う少女は、雨も降っていないのに黄色いレインコートを羽織っていた。ショートボブの黒髪にアシンメトリーな前髪は真っ白で、猫のような瞳がキョロキョロと周囲を見渡している。無秩序を具現化したかのような、奇妙な風体だ。
「なんで、ここに……?」
まとまりのない思考で出力できる質問などこんなもので、僕は間抜けな声でイマイチ意図の掴めない質問を繰り返す。後から誰かに聞かれると恥ずかしいが、この瞬間の僕は何か運命的なものを感じていた。
「さぁ? キミたちがあたしを呼んだのかもしれないし、ここから飛び降りるためにフラッと寄ったのかもね。あたしの行動はキミに掴めないし、ここに居るあたしにも解らない」
「つまり、何も考えてない?」
「あははっ、そのとーり。ただひとつ言えることは、あたしの命は風前のトモシビってことかな?」
彼女は僕の側へ近付くと、無防備な耳にそっと耳打ちをした。
「お願い、助けて」
刹那、屋上の唯一の出入り口であるドアが蹴破られた。現れたスーツ姿の2人組は、肩で風を切るように大股でズンズンと歩き続ける。
「探せ、ボスがご執心の女だ。殺すなよ」
「……なんで俺らがこんな仕事をやらなきゃいけないんだよ」
胸元のバッジが示すのは〈獄門會〉の代紋。コウロ地区の住民から恐れられる、ヤクザ組織だ。
「……女の名前、なんだっけ」
「確か、ユガミだよ。ふざけた名前だろ?」
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