#14

 一瞬の油断が好機だ。肩を押さえて蹲る老龍を蹴り飛ばすように跳躍し、飛び立つ寸前のヘリコプターに手を伸ばす。ランディングスキットを支える支柱を掴み、遠心力を活かして痛烈なドロップキックを見舞う!

 老龍は体勢を崩し、血を撒き散らしながらヘリポート上を転がる! コンクリートが赤く染まり、倒れ伏した老龍は今のところ動く様子が見えない。


「……まだまだだな」


 俺はヘリコプターの床を掴み、ホバリングを始めた機体にしがみつく。機内では拘束されたセルジオが、にこやかな笑顔で俺を見つめていた。


「いやいや、お見事だよ。君がここまで執念深く私を追うとは……」

「不死になる方法、教えろ……」


 武装集団の一人が俺に銃口を突きつけ、威嚇の叫びをあげる。俺は這い上がり、さらなる尋問をしようと起き上がった。何者かに足を掴まれた感覚に陥ったのは、その直後だ。


「止まれ、クーガー……」

「しつけぇな……」


 ヘリコプターは高度を上げ続ける。足を掴んでいた老龍も地を離れ、身体が風に揺れた。

 窓から周囲の様子を確認していたセルジオが、不意に運転士に声を掛ける。


「自動運転に切り替えるんだ、すぐに!」


 浮上する機体に掴まっている俺が違和感に気付いたのは、その数秒後だ。

 眼下に立つビルの狭間、巨大な体躯をした天使の幽霊が、その顔を露わにする。背を逸らし、月光を浴び、その姿は輝いている。


 そして。

 いていた。

 

 天使の幽霊が、世を憐れむように、哭いていた。

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