第3話 君の推しになりたい
「これじゃあダメだ……、もっと強くならないと」
初配信の反省を踏まえて、心機一転、以降は強気に振る舞うように心がけました。とりたてて特技も一芸もなければ、事務所という後ろ盾もない私ですので、思いついたことは何でもやってみることにいたしました。
2日目の初見耐久企画では、初見さんどころか配信開始から30分以上誰も来ず、心が折れて撃沈。「今日も誰も来なかったらどうしよう」とドキドキしながら配信ボタンを押した3日目は、2時間以上いわおさんとマンツーマンでの雑談枠になりました。いわおさんにアドバイスを受けてサムネイルを作り直した4日目は、慣れない画像編集の甲斐あって数人のリスナーさんが配信に顔を出してくださりました。
「こんりこ! 野菜の国からやって来たトマトの妖精、斗的りこぴんだよ。 甘酸っぱいりこぴんで元気いっぱい! 君の必須栄養素になりたいな! 初見さんはどうやってアタシのこと見つけてくれたのかな?」
『サムネ見て、立ち絵かわいいって思ってきました!』
「当然! アタシのママさんは神だからね」
『わかる!』
『悔しいがかわいい』
『ロリしか勝たん』
『立ち絵もかわいいけど、声もステキ』
「……!」
まさか立ち絵のりこぴんではなく、私自身の声が褒められるとは思ってもみず、思考停止。ほんの一瞬の放送事故、それでも瞬時に我に返ったことには我ながら
「、アタシの魅力がわかってるようね!」
『まんざらでもないw』
そうです、まんざらでもなかったのです。演劇部時代にすら禄に褒められたことのなかった声を、しかも配信者の魅力の要である声を、褒められたのですから。ただただ声帯から出る音を褒められただけなのに、私自身の本質を褒められたような気がしていい気になってしまったのです。
結局その日はフワフワしたまま雑談に終始し、その間に数人の方がフォローしてくださりました。このときのリスナーさん方は、今では私の枠の最古参になっておいでます。私の声を褒めてくれた早水さん。物腰が柔らかくて、さりげない優しさがコメントからにじみ出るようなリスナーさん。イラストがとてもお上手で、こんな私のためにファンアートを描いてくださったこともあります。同時期にデビューした事務所勢の
配信も10日もすれば慣れてくるもので、雑談になれた私は企画配信に踏み切りました。MoTToのトップページのサムネを見ていて目につく企画は、手当たり次第に真似しました。都道府県耐久、ガチャでロシアンシュークリーム、スイーツのレビュー、足つぼマットの上でひげダンス……エールのスクショ失敗で苦手なミニトマトもずいぶん食べました。元来口下手で引っ込み思案な私も、配信をつけると人が変わったように大胆に饒舌になれました。バイトと家の往復で今まで楽しみのない私でしたが、自分じゃない自分になれる配信は胸が躍るようで、ますますのめり込んでいきました。今でこそ
それでもやっぱり自信がなくて、リスナーさんが求めるりこぴんを必死に手探りしながら不安や嫉妬や自惚れを押し殺す毎日が続きました。
1ヶ月目の本格的なイベントが始まるまでは。
陰キャVライバーの内観 kgin @kgin
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。陰キャVライバーの内観の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます