第9話 シロ

 シロは桃太郎の育ての親の爺様と婆様の飼い犬だった。

 そもそもは村長が飼っていた犬のこどもの1匹で、たくさん生まれたうちの1匹を爺様と婆様がシロと名付けて、引き取って育てることにしたのだった。

 桃太郎がくるまで、爺様と婆様にはこどもがいなかったので、シロは二人のこどものように愛されて育った。

 ある日、桃から桃太郎が産まれるとシロは<兄>としてしっかりしなければと思った。桃太郎をいつも見守り、桃太郎が無理をするときには引っ張って止めたりした。

 桃太郎はあっという間に大きくなった。

 そしてある日、行方知れずになった。

 桃太郎が行方不明となって爺様も婆様もたいへん心を痛めていた。シロはせめて自分がという気持ちでなんとか二人の世話をした。

 

 ある日。爺様と婆様がシロと同じように真っ白な犬を連れてきた。とても美人で気立てのよい雌犬でシロはすぐに恋に落ちた。

 そして何匹もの子犬の父親となり、子犬たちの成長を見守って死んだ。


「ワン?」

 死んだはずなのだが、シロは爺様と婆様の家の目の前に立っていた。

 首を曲げて自分の体をみてみると、若い頃の立派な体格をしていた。目も鼻も若い頃とおなじようにしっかりしている。

 しかし爺様と婆様の家はずいぶんと古くいたんでいた。シロが最後に見た家の状態とはずいぶんと違う。まるでずいぶんと時が過ぎたかのようだ。

 家には誰もいなかった。爺様も婆様もいない。

 妻となった雌犬も子犬たちもいない。

 だがなんとなく離れがたく、シロは家の周辺で狩りをしながら生き延びていた。


 そんな昔とはずいぶんと違う、ワイルドというか生存競争に晒された生活をしていたある日。家に戻ると桃太郎が立っていた。

「ワン、ワン!」

 シロは懐かしいその<弟>に駆け寄った。

 桃太郎は驚いたようにシロを見た。だが昔と同じように彼を撫でてくれた。

 シロは自分がシロだ、と伝えたかったが人間の言葉は話せない。

 幸い桃太郎は改めてシロと呼んでくれるようになったのでそれで満足した。


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