第4話 竜宮城
次の暮らし向きを探して旅を続ける青鬼は亀と桃太郎に挨拶をして早々に立ち去った。
その後ろ姿は飄々として格好が良かった。
友人のために我が身を悪者にして犠牲にした。
通りすがりの亀を助けた。だが謝礼も受け取らない。
そしてそのまま颯爽と立ち去る。まさしく完璧な二枚目キャラクターだ。
鬼だけど。いや、鬼としては二枚目なのかもしれない。桃太郎にはわからない。
青鬼の背が見えなくなるまで見送ってから、亀は波打ち際へ少し進んで言った。
「それでは私の背中へどうぞ乗ってください。竜宮城へご案内しましょう」
「竜宮城は海の中にあるのかな?」
「よくご存じですね、びっくりしました。はい、そうですよ」
亀は驚いていった。
桃太郎は内心しくじったと思ったがそのまま続けた。
「私は人間だからそんなに長く水中にはいられないよ。1,2分で溺れてしまう。それでは困る」
「それは知っていますとも。人間は水中でいきられないですよね。
「私の背中に乗っていただければ、魔法で呼吸できるようにいたしましょう。そして竜宮城についたら、海中でも陸の生き物が呼吸できるマジックアイテムをご用意します」
いきなりファンタジー設定が来た。魔法とマジックアイテム。やはりこの世界には魔法があったのだ。桃太郎としては将来を予測しづらい、なおさら混沌としてくるけれども。
桃太郎を背に乗せた亀は真っ暗な海の中を進んでいく。ほとんど前は見えないが、亀には進路がわかっているようだ。
そのうちにきらびやかな竜宮城が見えてきた。
門のところで警備に立って(泳いで)いたサメが誰何する。
「その背に乗せているのは何者ぞ!」
「これは我が恩人……」
亀は説明を途中でためらった。
「恩人の恩人? 恩人の知り合い? うーん、どう説明しよう」
亀は首をひねった。
「私の命を助けてくれた人への御礼をする相手だ」
亀は愚直に事実を並べることにしたらしい。確かに説明はずいぶんと端折られているが事実だ。
その説明にサメの警備兵は納得したらしい。詰め所らしき場所へ戻ったサメがペンダントを桃太郎へ差し出した。
「これを首にかけてください。それで呼吸できます」
「ありがとうございます」
桃太郎はきれいな珊瑚のペンダント受け取って首にかけた。
更に亀に連れられ、竜宮城の中央にある塔へと向かった。
竜宮城の城下町には通り沿いにさまざまな店が建ち並んでいた。その向こうが住宅になっているようだ。
通りには様々な種類の海の生き物がいた。もちろん店の店員も海の生き物だ。
いずれも生活はよい様子だ。僻地の村の出身である桃太郎からすれば、ここはまさしく天国かと思うばかりの贅沢な空間だった。むしろ転生前の世界、浅草寺や渋谷を思い出す。
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