第2話 魔法を覚えた


「……」


冴えない30代のニートである俺はベッドから立ち上がった。


シャッ!


カーテンを開けてベランダの下に広がる光景を目に焼きつける。


「オォォォォォォ……」


人間の形をしたものが歩き回っていた。


グールだ。


グールがこの街を歩き回っている。


あれは夢じゃなかった。


それを確認して俺は某匿名掲示板にアクセス。


カタカタカタ。


アーランと名乗り書き込みをしていく。



237 アーラン

今日もグールが歩いてるなぁ



238 ロイド

お、おはようさんアーラン。

マジでな。

もう3日くらいだっけ?

グールやらモンスターやらが出始めてから。


239 アーラン

そんなもんだな。

いつ救援は来るんだろうなぁ



カタカタカタ。

俺ことアーランはそんなふうに書き込んでから机の上に目を向けた。


食い散らかしたカップ麺の容器が置いてあるだけ。


「飯がねぇ」


突然モンスターが日本の各地に出現してから3日経った。


んでもって、生きてる人間はグールに噛まれて噛まれたヤツらはどんどんグールになって奴らの仲間が増え続ける。


「どこのゾンビものだよ……」


乾いた笑いも出ない。

まさに現実はゾンビものになっていた。


まぁ違うところがあるとすれば


「ゴブリンだの、なんかファンタジーなモンスターも追加で出てきているところか」


この辺りでは見かけないがインターネットを見ていると、違う場所ではゴブリンとかワイバーンとかいるらしい。


ドラゴンとかもいるって話だ。

日本はいきなり異世界みたいになったのだ。


「はぁ……」


ため息を吐いて俺はもう一度掲示板にアクセスして書き込みを残す。



250 アーラン

今からコンビニ行って食料取ってくるわ。もう飯が無い。

書き込まなかったら死んだと思ってくれ。



しばらく見ていると俺を止める書き込みがあったが。


「今日の晩飯すらねぇんだよな」


それが実情であり俺がいつ動けなくなるかなんてまったく分からない。


なら動けるうちに食料を回収しておく。

それが一番大事だろう。


それにこのインターネットも電気だっていつまで使えるか分からない。


「武器……武器……」


武器になりそうなものを探す。


だが、一般的ニートの家にそんなものはなかった。


「傘ならあるけど」


仕方ない。

ないよりはマシだと思って傘を手に持った。


んで、剣みたいに持ってみた。

ブン!


振ってみた。

最低限は戦えそうだ。


「小学生ぶりだな。こんなことするの」


呟きながら扉に耳を押し当てて外にグールがいないかを確認する。


「いない、な」


ガチャっ。

扉を開けて俺は外に出た。


一番近いコンビニまで10分ほど。

とりあえずそこに向かう。


「グルゥ……」


しばらく歩くと最初の1匹目のグールが視界に入った。


「あいつに噛まれたら俺もグールってわけか」


建物の陰に身を隠しながら俺はコンビニに向かっていく。


10分後。

グールに見つかることも無くコンビニにたどり着けた。


「やってみるもんだな。余裕じゃん」


よっと。


割れた窓からコンビニの中に入る。


ジャリ。


割れた窓ガラスの破片を踏んで音が鳴る。


「強盗みたい」


みたい、じゃなくて。実際強盗かもしれないけど。


「まぁ、こんな状況だし許してくれよな?」


背負っていたリュックを前面に回して残っているパンなどの食料を詰め込んでいく。


「よっ」


一通り詰めてリュックを背負い直したその時。


ジャリ。


(誰か入ってきたか?)


俺が今いるところの床には何も置いていない。

だから、こんな音鳴るわけない。


(気付かれてるか?そもそも、誰……いや、何が入ってきた?)


ソロソロ。


俺は商品棚の角から窓の方を少しチラ見。

そこには


「グゥ……」


グールが立っていた。

フラフラと歩いてる。


(ちっ……グールか)


数は1匹。


(誘導、してみるか)


そう思った俺は近くにあった消費期限切れの飲料を手に取った。

それをポイ。


店の奥に向けて投げる。


ガラガラ。

そんな音を鳴らして飲料は落下。


「グゥ?」


よしっ。

グールの目が飲料の方に向いたぞ。


そして、グールは音の鳴るほうへ向かっていった。

今、だな。


俺はソロソロと音を立てないように歩いて入ってきた場所から外に出た。


「ふぅ……」


一息ついてからさっさと歩き出す。

早く家に帰らないと。


それと、分かったことがある。

グールは音に反応する、ということ。


またなにか外出する必要があったときとか使えそうだな。


「あと、3分くらいで家まで帰れる」


そう思った時


「ん?」


帰り道に木材屋の前を通りかかった。


(そういえば、ここ木材屋だったな)


そんなことを思いながら店に近付いて


(木刀……こんなものも売ってたんだな)


店の中に木刀があることに目がいった。

俺の今の武器は傘だ。


それに比べたら


「かなりいいよなこれ」


一本木刀を拝借することにした。


「よし、」


そう思った時。

ガラガラガラ。


「あっ」


俺が木刀を抜いたせいで他の木刀が音を立てて崩れてしまった。


「やばい」


急いで外に出るが。


「くそ!」


3匹のグールが俺を視認していた。


気付かれてしまったからにはどうしようもない。


「く、来んなよ!」


走って家の方に向かってみるが、


「グルゥ……」


追いかけてくるグールの声は遠くならないどころか、近くなってきている。


「足早すぎだろ?!」


もちろん俺の足は遅い方ではあるが。

チラッ。

後ろを見てみると


「くそはええ!!!!」


爆速ダッシュで迫り来るグール3匹の姿が見える。


「やばいやばいやばい」


このままじゃ追いつかれて噛まれる。


しかし


「どうすりゃいい?」


逃げながら考える。

こんな木刀じゃ戦えても3匹を相手に、なんて到底無理だと思う。


「こんなとき魔法でも使えればなぁ。って、非現実的過ぎるか……」


なんてことをふと思ったけど。


「魔法……魔法、ねぇ……」


待てよ。


今俺は非現実的なグールに追いかけられてる……。

もしかして魔法の1つや2つ出るんじゃないか?


ゴクリ。

息を飲んだが。


いや、バカバカしい。

そんなわけないだろう。


と頭を横に振ったが……。

他に手は無い。


「グルゥ……」


逃げ切る、はもっと無理。

爆速ダッシュのグールを引きはがせる気がしない。

あと2分くらいで家に帰れるだろうが、それでも逃げ切れる気がしない。


それに……試してみるだけならタダだ。

そう思った俺は、小学生の時に遊びでやったように全身に力を入れた。

それを手の先に集めるようにして、


「ふぁ、ファイアボール」


ボソッ。


って、出るわけないよな……。


だってそうだろう?

いくらグールが出たからって、手から急に火の玉が出るわけが……。


ボンッ!


次の瞬間。


色々思っていたが俺の頭の中の考えは一気に吹き飛んだ。


ボウッ!


俺の手のひらから飛び出した火の玉は一匹のグールに当たって。


燃えた。


(え?)


現実に理解が追いついていないけど、体は動く。


「ファイアボール!ファイアボール!」


続けて2発ファイアボールを放った。

ボウッ!ボウッ!


飛んで行った火の玉は続いて残り2匹のグールを焼き尽くした。


ブスッブスッ。

やがて火の勢いはなくなって、その場に崩れ落ちたグール達。


先程までの爆速ダッシュはもう見れなくなっていた。

俺は自分の手のひらを見た。


表。

裏。


ひっくり返して何度も何度も見た。


なんか種があるのかと思ったけどそんなものある訳もなく。


「おいおい、マジかよ……」


魔法が使えたんだが……。


30歳までだと童貞だと魔法使いになれるってやつ?


そんなことを思いながらもう1つ試したいことが頭の中に浮かび上がってきた。


(あれとかもいけるんじゃね?)


ゴクリ。

生唾を飲み込んで俺は呟いた。


「……ステータス、オープン」


って、漫画の見すぎか……とか思ったけどさ。


ブン!


ウィンドウが浮かび上がった。



名前:アライ ユウイチ

レベル:1



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