第27話 第三章 ー4

 サムは何者かに追われていた。

 より正確に言えば、何者かに追われているような気配を感じるようになっていた。


 ――侵入という手段を用いて、不法に入り込んだ。これがどういうことか理解しているのか?


 この、アルの言葉が、いつまでも頭にこびりついて離れない。

 ひょっとしたら、追われているように感じるのも、その強迫観念からくる精神的なものかもしれなかった。


 九月の末にティムがバンドに復帰してから、バンドは順調にライブを重ねていた。アルもあれ以来何も言ってこない。むしろそのことが逆にサムの不安を煽るのであったが。

 そして、少し肌寒くなってきた十月の後半となっても、憂鬱な気持ちが晴れることはなかった。この頃からサムは、根本原因を解決しなければならない、と考え始めた。そうしなければ、いつまで経っても不安が消えないのである。


 あの街は一体何だったのか? 


 サムは考えようとしたが、すぐに思考が止まってしまう。手がかりが少なすぎるのである。一つに、モンゴルに存在する世に知られていない街であること、そして、建築物を見る限りではどこの文化圏にも属していないように感じられた。と、これだけである。

 しばらくは中央アジアの歴史から、現在の政治経済についてまで、様々な書籍、文献により調査を行っていたが、何も得られるものがなかった。


 十二月初旬。

 少し経済的に余裕が生まれてきたサムは、長年生活してきたアパートを出ることにした。その引越し作業の途中、衣服やカバンを整理していたサムは、見慣れない布切れを発見した。

 そこには、二匹の鳥のような奇怪な生き物と、それを取り囲むような円が織り込まれていた。始めは特に気にすることもなく、捨ててしまおうとしたサムであったが、すぐに手を止めた。


「これは……」


 思わず声が漏れていた。

 それは、WRTへ侵入した際、暗闇の中で破りとってきた布であった。

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