第30話

夫からの電話は数分間続き、不意に切れた。ほとんど意思疎通はできなかった。世界から切断されて排除されたかのような気分になった。電話そのものが、コンピューターなどの自動音声であったと後で聞かされても違和感がなかっただろう。それくらい一方的で機械的でノイジーな電話だ。

警察に言ったほうがいいのだろうか。

TVをつけると、ちょうどニュースをやっていたが、画面に表示されたテロップに目がくぎつけになった。そこには夫の名前と年齢が記されていた。夫の元職場で公金横領の疑いとあった。夫の顔と名前も出ていた。逮捕状が出たのだ。

私はしばらく手で顔を覆って何もする気がしなかった。娘はどうしているのか。

さいわいなことに、夫と離婚して名前が旧姓に戻ったので、私の仕事に影響はなさそうだった。たとえ名前が出たとしても、元夫なんて別人、他人の部類だし、国内の会社との取引は無いことはなかったが少な目なので、大きく影響が出そうではなかった。

私の実家から電話がかかってきたらどうしよう…?と思ったが、特に何もなかった。しかし、とっくにニュースは目にしているだろうし、もしかしたら警察の連絡もいっているかもしれない。なんということをしてくれたのだ、あのひとは。

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