第28話

振り向くと、見知らぬ若い女性がいた。同じ患者なのだろうが、患者に声をかけられたのは初めてだった。

「薬局ってどう行くのかわかりますか?初めてで…」

彼女は比較的しっかりした声で話した。怪しい人物ではなさそう。

県立病院は敷地内に三棟あって、初めて来た人はたどり着くのに迷いそうだった。

長椅子に座って説明すると女性は、ああ、やっと分かりました、どうもありがとうございます、後で教わった通りに行ってみますといって笑った。私もつられて笑った。

彼女は「あの先生どう思いますか?」と訊いてきた。

「さあ」と言うと「人気あるんですよね、あの先生市内でも」

知らなかった。でも、そうかもしれない。まだ若いし、よく患者の話を聞くほうだし、それに彼のところに通っている患者たちは、彼がインフルエンサーであることを知らない。ネットで何を話しているかを知ったら半分くらいファンが離れるかもしれなかった。

あなたはあの先生のファンなの?と質問すると、どうですかねえ、まだ通う初めて日が浅いんですけど、あの先生どうなのかなと思って。ここの病院は友だちの患者がいないから、どういう先生なのか分からないんですよねと言った。私は転院予定だ。

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