第27話
診察室を出て長椅子に座ると例の女性が座っていた。いつの間にいたのだろう?
彼女は帽子を目深に被りうつむいて座っているようだった・…いるようだったというのは、私の位置から彼女の表情までは見えないからだ。
待合にいる他の患者は、低い声で話し合ったり、本を読んだり、首をだらんと下げて居眠りしていた。いつも四五人の患者が自分の名前を呼ばれるのを待っていた。
しかし彼女はそのいずれでもなく、だれとも話すでもなく、気がつくといつも私の視界のどこかにいた。私は彼女以外の人のことをほとんど記憶していなかった。
私は急に寒気がしてきてガタガタと全身が震えた。こんなことを経験したのははじめてだった。待合室はもちろん照明があったが、古い建物の中で、あまり明るいとは言えない場所だった。
私は名前を呼ばれて、立ち上がる時に彼女の横顔をちらと見た。見覚えのある横顔だが無表情だった。
なぜ私の通院日にいつも斜めの位置に座っているのだろう?そんな質問をぶつけたらどうなるのだろうか。ストーカー?つきまとい?…まさかね。病院以外の場所で見たことがないし。
くるりと振りむくと彼女の姿は消えていた。
「あの…」後ろから声をかけられて、背筋が恐怖で固まった。
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