第26話

今飲んでいる薬について何か言いたいことがありそうな医師をさえぎって、私は「転院したい」と申し出た。一瞬、沈黙がその場を支配した。

理由は適当にでっちあげた。「場所が遠いので、もっと近いクリニックにしたいと思いまして。

この医師と会うのは今日が最後にしたかった。Twitterを見るのをやめられるかどうかまでは、自分では分からなかった。

主治医は黙って聞いていたが「分かりました。紹介状を書きましょうか?」と言った。

転院先が決まっていないので…と言って、断った。

別に、なぜと問い詰めるわけでもなく、ひきとめるわけでもなく、あっさりとした感じだった。最初からこういう展開を望んで、いろいろツイートしていたのかというほどあっさりした態度だったが、そういう訳でもないだろう。

内心私のことを気に入っているのはわかった。その個人的な感情が問題だった。そもそもなぜ気に入るのか?彼は不可解だ。

私はふと窓の外を見た。数カ月前、Twitterの流れてくる画面を見ていて、どこかで見た風景だと食い入るように見つめた、あの風景だ。でも窓の外に広がる空の色も、離れた所にある樹木の緑も、なにもかもが別の世界の別の風景のように思えた。


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