第4話

 待合室のその女性は、いつもつば広の帽子を目深に被り、私と同じくらいの年齢の似たような背格好で、地味な服のセンスまでよく似ていた。彼女の顔はこの位置からよく見えなかった。

 待合室はいつも混雑していて多くの患者が待っているので、最初は彼女の存在に気がつかなかった。しかし何のはずみか…あれ、あの女性、また来てる…と気づいたのだった。何度も見かけているのだから、私は彼女の顔くらい覚えているはずなのだけど、奇妙なことに、どうしても彼女の顔が思い出せない。

 県立病院は敷地に三棟の建物が並んでいて、その建物は二階、三階と渡り廊下で繋がっているはずだった。「はずだった」というのは、建物の構造がちょっと複雑で、どこをどう歩いていったら、何棟の何科へ行くのか?いまだによく覚えていなかった。一度、変なところでエレベーターを降りて、かなり迷って閉口した。何とか毎回、自分の受診科までたどり着いた。精神科は古い建物のたしか五階にあった。受付の前に患者用の長椅子が川の字に並んでいて、今思い出すとどこか薄暗い感じがする。いつも大勢の患者が長椅子に並んで自分の順番を待っていたが、私は予約して受診しているためかそれほど待たされることもなかった。

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