お前さ、

 全国大会が終わって、一週間後。

 「今日は、勝つ」

 「今日も、勝つ」

 「「「よろしくおねがいしあす!!」」」

 僕たち黎明れいめい高校と、薄暮はくぼ高校の練習試合が開かれていた。

 「卒部記念練習試合って、普通、やるか?しかも、決勝で負けた相手と」

 僕の隣で準備の手伝いをしていたたつきが、意味わかんねえと小さく呟く。

 その視線の先には、薄暮高校の人と火花を散らしている先輩達がいた。

 「あ、そうそう赤松あかまつ、ダブルスん時この子出して良い?」

 優大ゆうだい先輩に背を押され、いとさんが相手の部長の前に出る。

 「は、女子!?おい青島あおしま、お前いつの間に入れたんだよ羨ましいな!」

 相手の部長さんは糸さんを前にワナワナと震え、優大先輩を問い詰める。

 優大先輩はにやっ、と笑って糸さんの頭をポンポンと叩いた。

 「しかも、俺達ん中で一番ダブルスの才能があるぞ、この子は」

 「そうなんすか、優大センパイ!?」

 「まじか。…じゃあ俺らも、本気で相手した方がいいか」


 …なんか、面白くないな。

 糸さんが試合に出れるのは嬉しいけど、糸さんが他の人に知られるのはなんか、嫌だ。

 「顔に出とるよ、じゅん。赤松がなんかやっとった?」

 「あ、玄鳥つばめ先輩。や、相手さんは何もやってないです」

 「ふ〜ん?」

 ニヤニヤ。玄鳥先輩が、ニヤつきながら僕の顔を見る。

 どこか揶揄うような、少し居心地の悪い視線。

 「…どうしました、玄鳥先輩」

 「いやさ、ウチのマネージャーは人気やなぁち思って」

 その視線は糸さんへも注がれる。その口元には笑みが浮かんでいた。

 そして、玄鳥先輩は視線を僕に戻し、

 「純、お前さ、糸のこと好きやろ」

突然、そんなこと言い出した。

 …は?

 何つった、この人。

 「あれ、違った?こないだの大会ん時から、糸に心囚われちゃったんやと思ったんやけど」

 何なんだ、この人。全部バレてる。

 …正直に言った方がいいか。

 「……そ、うです。僕は、糸さんがす、好きですね」

 頬が赤くなるのが分かる。

 おっ、やっぱりそうなんや。当たったー。

 玄鳥先輩は言うだけ言って、自分の試合の準備に入る。

 「…何なんだ一体。先輩怖っ」

 「誰センパイが怖いって?」

 優大先輩から解放された糸さんが僕の所へやって来る。

 その顔はニッコニコの笑顔で、全身から"嬉しい"という感情が滲み出てるようだった。かわいい。

 「聞いてよ純くん!試合、出してもらえるようになった!」

 「良かったね、糸さん。誰と出るの?」

 ぱぁっ、と目を輝かせて、これまた満点の笑顔で言った。

 「たつきと!」

 …僕もテニスの練習しようかな。

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