好きなんだ

 ああ、そっか。

 そういうことか。


 僕は、いとさんが好きなんだ。


 糸さんの背中を追いかけて、手を伸ばす。

 「っ、どした、じゅんくん」

 くいっ、と服を引っ張り、立ち止まった僕の名前を呼びながら、糸さんは振り返った。

 「?」

 その振り返る動作がいつもよりも綺麗に見えて、動揺してしまう。

 「…ぁ、え、えと」

 何で、何で僕は服を掴んだんだっけ。

 ほぼ無意識だったから、特に意味はない。

 「あ、あのさ」

 変な間を作りたくなくてとりあえず口を開いたけど、やっぱり言葉が出ない。

 言え言え、何か言え。何でも良いから、何か___。


 ふと、目に入ったのは土手に咲く花々。

 「あの花、名前なんだろうね」

 「ん?あぁ、何だろうね。一瞬アニメの方かと思った」

 「…そのアニメ、世代じゃないんじゃなかったっけ」

 色々見てるの。糸さんは少しむすくれた様に頬を膨らませ、パッと表情を変える。

 「…ありがとね、純くん」

 太陽がちょうど、彼女の背に差し掛かって、眩しくなる。

 「純くんのおかげで、少し楽になった」

 にっ、と笑う彼女に、僕は目を細めながら頷いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る