帰り道

 インターハイの団体戦、個人戦ともに終わり、今はその帰り道。

 着替えの入ったバッグに引きずられるように背負いながら、トボトボと歩いていた。


 僕の先を無言で歩いていたいとさんが突然立ち止まり、


 「ねえ、明日の天気はなんだっけ」


と目を赤く腫らしながら、尋ねてくる。

 僕はうまく言葉を返すことができず、

 「晴れだと良いね」

とありきたりな答えしか返せなかった。糸さんの心の中を知っていたら、もう少し馬鹿なことを言って笑わせたのに。


 「そうだね、晴れだといいな」


 浅い青色の空に浮かぶ太陽を見て、彼女は目を細める。

 違うんだ。僕は、そんなことを言いたかったわけじゃない。僕が言いたかったのは、僕が伝えたかったのは。

 言いたい言葉を探しているうちに、彼女は再び歩きはじめる。

 いつもの帰り道を、ゆっくり。


 「負けたくないなあ。もっと、戦ってたいよ」


 土手に差し掛かった所で、彼女が唐突に言った。

 土手にはたくさんの花が咲き誇っており、むせ返るような匂いが立ち込めている。


 「もっと、一緒にいたかったよ」


 花の匂いに混じって、彼女の香りが漂ってきた。

 それは、僕の口を縫い付けてしまうほど、爽やかな香りで。

 もう僕は、何も言えなくなってしまった。


 …悔しいな。

 先輩達なら、糸さんを励ませるのに。

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