コートの向こう側は

 コートの向こう側は、歓喜にあふれていて、僕にはそれが、遠くの景色を眺めているように感じた。

 「並んでください」

 審判が号令を掛け、先輩たちと相手がサービスラインに並ぶ。

 「団体戦ファイナル、黎明れいめい高校対薄暮はくぼ高校の試合は、3対2で薄暮高校が勝ちました!」

 審判の声が高らかに響き、コート中が拍手喝采に包まれた。

 「……おわ、っちゃった」

 ずび、と鼻を鳴らして、いとさんは呟く。

 涙を湛えた瞳は、依然変わらず、先輩たちを見つめていた。

 「…泣いてるの、じゅんくん?目ェ真っ赤だよ」

 あはは、おかしい。糸さんは僕の顔を見て笑う。

 「糸さんも、目が真っ赤」

 泣いているのを指摘された恥ずかしさを紛らわすために、僕も糸さんと同じように笑った。


 表彰式も全て終わり、拍手に背を押されて先輩たちはコートから出てくる。

 「せんぱ、……」

 先輩たちに何と声を掛ければ良いのだろう。僕は、試合に出た事ないのに。選手ですらないのに。

 口をつぐんだ僕と入れ替わるように、糸さんが先輩達の元へ駆け寄り、笑顔で迎えた。

 「お疲れ様です、センパイ!かっこよかったです!」

 これ、どうぞ!と糸さんは言って、タオルと作ってきていたドリンクを先輩達一人一人に渡す。

 「これ飲んで、身体休めてください」

 静かに、穏やかに、糸さんは話し続ける。

 「…ってまあ、試合にすら出てないマネージャーが何言ってんだって話なんすけどね」

 最後の1人である優大ゆうだい先輩に渡し終えて、糸さんは顔を上げた。

 なははっ、と笑うその目尻は、真っ赤になっている。


 糸さんは、誰よりも試合に出たかったんだ。誰よりも、戦いたかったんだ。

 でも、それは出来ないから。

 だから、その代わりに、先輩達を信じて、応援していたんだ。

 誰よりも彼女は、先輩達と一緒に、戦いたかったんだ。


 全て終わって、やっと気付いた。

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